ページ 1 2 3 4 5 6 7
表紙 8 9 10 11 12
エレベータの音が小さくなっていく……カイトが去ってもまだその場に立ちすくみ頭の中ではいろんな思いが駆け巡る

一一一そうカイトが言っている事はきっと正しい事なのだろう。だがそれでも……

そう思った時……エレベータの音が大きくなって近付いてくるのに気づき思わず扉の向こうから出てくる人物に期待する。しかしその扉から来た人物は期待とは違う人物…

「……ハイデル氏…どうして…」

一一一カイトが戻ってくるはずないと分かっているのに……俺は……

期待はずれのようなその声にハイデル氏は怒りそうになったがサリエルの沈んだ顔を見ると怒りの言葉さえ出て来ず

「……あのカイトとかいう奴がお前が倒れていると言っていたのでな……だが無駄だったようだな」

自分の身を案じて来てくれたのか?意外なその言葉に驚きを隠せないサリエル。そんなサリエルの顔をみて照れくさそうに

「ふん!!お前にはいろいろと弁償をしてもらわねばならんからな!!」

いつもと変わらない言葉だが、どこか優しさを感じる。そんな優しさに甘えてしまい昔のようにハイデル氏に語りかけてしまった

「………なぜ俺はいつも過去を振り切る事が出来ないのだろうか……?もっと割り切った生き方や考え方をしたいのに……」

意外なサリエルの言葉に驚きつつも、いつもと違う様子に少し戸惑いながらもハイデル氏は語るように言う

「……俺とお前の違いがなにか分かるか?」

「……違い?」

そう質問するハイデル氏の顔を見ながら考える

……俺との違い……違うと言うなら生き方や考え方そして根本的な所から違うような気がするが果たしてそれが答えなのだろうか?

答える事が出来ない様子にハイデル氏の口が開く

「俺とお前の違い…。それはお前は過去を見て生き俺は過去を振り返らずに生きている」

「……」

「お前は過去をいつも見ている。だが過去を振り返ると言う事はその過去とは違う未来を進める事も出来ると言う事だ。そしてお前は過去を乗り越えていく……そうだろう?」

ふと小さい声が聞こえる……それは幼い自分の声

一一一さあ、………行こう

その言葉に涙が出て来て止まらなかった。なぜ今まで気付かなかったのだろう。過去は未来を未来は過去を変える為にあるというのに一一一一。そう諦める事はないのだ。間違えれば違う道をただ行けばいいのだと。簡単でそして何と難しい事だと思いながらも自分自身の気持ちであり決意に気付く。涙を流しながら

「ハイデル氏、私は…………貴方の生き方に憧れた事もあった。でも私は貴方のようには生きれない……」

そのサリエルの言葉に賛同するようにハイデル氏も

「俺もお前のような生き方が少々うらやましく思った時もあった。だがお前のようには生きれないし生きたくもない。」

お互いに考え方も生き方も違う2人。だがなぜかお互いに認めあうものが存在しているのも確かだった。それが昔共に歩んだ時もあったからなのかは分からないがきっとそれは分からなくても良い事だと……そう今はそう思う。

上にあがる(となりのページへ)→

一一一一一一それからの数日間、サリエルには大変な日々だった。
あれから後日システム管理の人たちがやってきて誤作動の(となっている)状況などの原因を調べに来たがシステムが以前の状況に戻っている事もあり結局何も分からずじまいのままで結果は俺の仕業(暴言)と言う事で終わってしまった。一番苦労したのがハイデル氏が購入した召し使い用の機械人形のデータが全て空になっていて使い物にならなかった事だ。機械人形を調べた技術者たちは複雑な仕組みと記憶のデータなどが綺麗になくなった事に驚き俺はその時の状況や説明などをしなければならなかったのだがカイトの事を言わずに説明をするのは難しく嘘ばかりでごまかしている為、聞いてくる者達はそんな俺に疑いの眼を持つばかりで結局これも原因不明のまま俺のせいになってしまう。唯一の救いは今回の一番の犠牲者である所持者のハイデル氏が激怒はしたもののカイトの事は何も言わずに黙っていてくれた事だ。

すべて解決したとは言えないがハイデル氏が特に追求しなかった事もあり、この1件はすべて俺の弁償という事になったのだが、その額は俺が一生働き続けてもすべて払える額ではなくハイデル氏の要求でこの先の5年間ハイデル氏の依頼はすべて無料奉仕で働くと言う事で決着がついた。



………そして…俺はいつもの安い家賃の古びたビルの4階の事務所にいて朝は窓から見える通勤ラッシュを歩く人波を見ながらコーヒーを飲む。そう…いつもと変わらない風景……しかし実際は昨日とは違うものがきっとそこにはあるのだろうと思わずにはいられない風景を……。

「サリエル、今日ノコーヒーノ味ハドウデスカ?」

背後から声がする。コーヒーを飲みながらその声の主の方に振り返りながら

「うん、今日のコーヒーも美味しいよ。トマ」

……トマ…そうハイデル氏が大金をはたいて買った召し使い用の機械人形でありカイトが全て消去をしてしまった機械人形。あの件のあとハイデル氏から

「こんな使い物にもならん機械人形なぞゴミ同然だ!お前にくれてやる!!」

言い方はひどいが俺の気持ちを汲んでくれた行動と思って感謝している。しかし以前は召し使い用の機械人形だったとはいえ全て空白の状態から始めなければならないわけで今まで機械人形を扱った事がない俺には基本入力も大変だが行動に関しても逐一入力しなければならず、この先の苦労が眼に見えて明らかなのは言うまでもないだろう。

トマは机に上にあるコーヒーポットのコーヒーの量を見ながら

「オカワリハ、イリマスカ?」

「ああ、もらおう」

……トマは俺が思っているような機械人形になるかどうかは分からないし自信もない……だがそれでも……いつかカイトに会う日が来るのなら例えその時、俺がこの世にいなくてもトマが君に会えるのなら……そう…出会ったとしてもきっと君は何も変わらないだろう。それでも願っている。

もう一度カイト……君に出会える事を一一一一。



そんなサリエルの様子を向かいのビルの部屋の窓から見ている者がいた。カーテンごしから見ている為と気付かれないように注意を払っている為だろうサリエルが気付く様子はない。きっと彼が気付いたのなら喜んで向かいのビルまで走っていく事だろう。そう彼が会いたいと望んでいる少年がそこにいるのだから……。

“……もうこれで安心しただろ?いい加減に旅に出ようぜ”

頭の中で声が響く。カイトの頭の声の人物はともかく今のカイトはあの後サリエルの身を案じていた。どういう状況になろうとも自分達の事に関してはどうにでもなるがサリエルはそうはいかない。何かあった時は自分達で何とかしなくてはと思いサリエルの身辺を今まで見て来たが思っていたよりも良い状況になっている事に安心もし、そして巻き添えにしてしまって悪い事をしたと頭の中で謝った。

「……さて、旅にでようか」

カイトはそう言うと窓越しから離れ部屋を出る。もう2度と戻らない部屋……そしてもう会う事はないであろうサリエルに別れを告げながら……。

  一一一一END一一一一