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一一一機械人形の人格と記憶の消去??一体何を言っているんだ?こんな少年にそんな事が出来るわけが……そう疑う気持ちと、どこかで納得している自分がいるのに驚きながらも

「……君は……誰なんだ?」

その時ふと遠い眼差しをカイトがしたように見えたのは気のせいだったのだろうか?

「……俺達は……ただの機械人形だよ」

“もう、いいだろう?この場所から離れよう”

頭の中で声が語りかける。

「……そうだな」

その声に従うようにエレベータの方に向かって歩いて行こうとした時であった

「!!待て!話はまだ終わっていない!!」

背を向けて歩いていくカイトの肩をつかもうとしたよりも早くにカイトの方が先に行動にでた。カイトは振りかえると同時に右の握りこぶしを力一杯に腹に入れこんできたのだ。思いがけない行動に対処出来ずに腹を押さえてその場にうずくまる。

「……機械人形が人に危害を加えるなんて思った事ないだろ?」

うずくまっている上の方から声が聞こえてくる。

「あんたは……俺達の役にたってくれた。だから殺さずにおいてやるよ」

「……分からない…君は…機械人形を消去する事……が出来る……ここのセキリュティを変えたのも……君なんだろ?……なら俺なんて……必要ないんじゃないか…?何で俺を雇ったんだ?なぜだ教えてくれ……」

そうだ俺なんかいなくても君なら……このトマと呼ばれていた機械人形に会う事が出来たはずなんだ。

「そう……出来るさ。あんたがいなくても出来る。だが残念な事にハイデル氏は悪どい人物らしくてね。いろんな情報がありすぎて1つ1つ確認をしながらではあまりにも時間がかかりすぎるんだ。俺達は1分1秒でも早くトマに会いトマの人格がどうなっているかを突き止めなければならなかった。だからハイデル氏の友人である、あんたに頼んだんだよ。案の定……いや思っていたよりも早くにトマの事を突き止められたよ」

「……そうまでして会った機械人形をなぜ消去する?…約束とは?」

言いながら腹を押さえながら立ち上がる。そのサリエルの動きを眼でおいながらカイトは返答をする

「機械は目的の為に作られる……目的がなくなった機械人形に動く意味等ない……だから消去すると約束をした。だが人間は機械が造られた本来の目的なんて関係なく動かそうと……利用しようとする。あんたも…知っている事だろう?」

「……知っている……がしかし新しい目的で動いたって…いいじゃないか」

警戒をしながらカイトを見る。カイトもその眼をそらさずに

「そう…それでもいいさ。新しく人格をつくった新たな機械人形として使うならな!!」

そう言ったかと思うとまた右から拳が向かってくる。しかし今度は簡単には殴らせない。両腕でカイトの拳を止める。しかし今度は左から拳が来る。それもどうにか止めたが、それと同時にカイトは後ろに下がったと思うと足を蹴りあげてくる。

一一一実戦なれしている??それとも機械だからか??

「しかし!!見ろ!!あの機械人形を!!記憶も人格も勝手に利用しようとした姿を!」

その言葉でふと頭にたくさんコードがついている痛々しい機械人形の姿を思い出しカイトの攻撃に躊躇してしまった。その機会をカイトが見のがすはずもなく見事に脇腹や顔に攻撃をくらってしまい倒れこんでしまう。

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「俺達は目的の為に造られた!!その目的を変える行為は俺達が存在しないのと同じ事だ!お前達には分かるまい。目的もないお前達人間にはな!!」

そう言いながら倒れているサリエルに攻撃を加えようとした瞬間カイトの動きが止まった。サリエルはその静けさにとまどいながらも顔をあげカイトを見る。しかしそこにいるのは、さっきまで怒りに満ちていたカイトではなく静かに落ち着いたカイトがいてサリエルを見下ろしていた。

「……すいません、サリエルさん」

“な……!!まだお前の出番じゃない!!”

そう、それは表の人格が入れ替わった瞬間であった。倒れこんでいるサリエルも様子が違うカイトに驚きもしたが安心もした。

「……カ…カイト君……なのか?」

「はい、そうです」

返事をしながらカイトはかがみ込んでサリエルの怪我の状態を見る。たいした怪我ではないと分かると

「………最上階には誰かいますか?」

俺が1人で来るわけがない事を判断し、上の状況が知りたかったのだろう。特に隠す必要もないので

「……ああ、いるがハイデル氏だけだ。彼1人なら簡単に抜け出す事が出来るだろ?」

「ありがとうございます。彼なら無駄な争いをしなくて済みそうです」

そう言いながらカイトは台の上に寝ている機械人形を見る。サリエルもその視線を追うようにカイトが見ている機械人形を見た。ふとハイデル氏が言った言葉が蘇る

一一一昔の記憶があってこそ価値がある機械人形だ。そうは思わないか?一一一

……違う!!それだけじゃないはずだ!俺は……

「カイト……待ってくれ」

立ち上がりエレベータに向かおうとしているカイトの腕を掴んで引き止める

「サリエルさん?」

「……頭の中ではいろんな言葉が駆け巡っているけど……どの言葉を言っても君達にはきっと届かないだろうと……思う……でも…それでも…信じたいし信じてほしい……」

………なぜもっと上手く言えないんだろう…この想いや気持ちを伝えたいのに言葉が見つからない……なぜこの感情をそのまま伝える事が出来ないのだろうか?。

「……信じてますよ」

カイトのその言葉に驚き顔を見るがカイトは顔色も変えずに続けて

「……人を喜ばす言葉ぐらいは知っているんですよ、サリエルさん。」

カイトの腕を掴んでいた手がゆるむ。それに気付いたのかは分からないがカイトは掴んでいた腕をほどいて後ろを振り返らずにエレベータに乗り込む。カイトは1階のボタンを押す為に一度振り返りはしたが、サリエルの姿を見る事はしなかった。扉が閉じエレベータが動き出す。そのエレベータのあがる音を聞きながら

“……お前にしては珍しく冷たい口調だったな”

と頭の中で声が響く……。その声に返答をしようと口を開きかけたがすぐに閉じる。ただ明かりだけがまぶしいエレベータの天井を見上げてから口を開く……

「………僕らに…何かを期待しても意味が無い……そうだろ?」

“……そうさ、意味がない。俺達は知る事は出来ても理解は出来ない”


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