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サリエルの返事にただ深くため息をつくハイデル氏……

………なぜ目の前にいるのが、この男なのだろう……他の奴なら聞く耳も持たずにさっさと追い返すのに一一一一

携帯電話からセキリュティ会社に電話をして緊急事態のシステムにしてもらうように命令をする。こういう時はやはり大金を出しているだけあって会社も素直に言う事を聞く。

電話が終わってからしばらくするとエレベータに向かって右横の壁から“ガチッ”と音がしたかと思うと壁が粉々に崩れはじめ人が一人通れるぐらいの長方形の穴が出来た。最近は地震などで扉が壊れて開かないなどがあるのと、ここではセキリュティに金を使っているのとで非常事態に備えて簡単でしかも安全に出入り口が確保できるようになっているようだ。サリエルは崩れた壁の穴をのぞくと思っていた以上の広さに驚いた。円を描くように地下に続く螺旋上の鉄の階段は大人が2人で並んで歩いても大丈夫なスペースが確保されてあり、しかも壁にはハシゴになるように鉄の凹型のが埋め込まれている。もしかしたらこの建物は機械人形の為だけではなく自分自身の身の安全の為の核シェルターなみの設備があるのではないかと思わずにはいられなかった。

「ありがとうございます。ハイデル氏」

そう言ってから地下に続く階段を降りて行く。1階々を通りすぎる度に粉々に崩れている出入り口の壁が見える。緊急事態の安全装置が働いている為にすべての部屋がきっとこうなっているのだろう。ふと“すべての責任は俺がとる”と言った言葉を後悔する。

……この修理代は……やはり俺が払うのだろうな……



……その頃カイトはまだトマの機能の中にいた。さっきまで一緒に過去のデータを見ていたトマの姿のデータはもうトマの形として存在していない。そして今、トマの人格はすべて消去し終わりそれと同時に過去の記憶のデータの取り込みもすべて終わっていた……。今カイトの周りにあるのはトマのデータが何1つ存在しないデータの中。その中で1人身を任せて立っているカイト。トマの記憶のデータを取り込んでも何も変わらなかった自分達……それはただ可能性が消えただけと言う事で、またいつものようにお互いの旅が続くだけ。

「………」

“……トマは……”

頭の中で声がする

“……トマはもしかしたら僕達を造ったマスター達と同じ者かもしれない”

「そう……だな。俺達と似たものがあいつにはあった……だが、それだけだ」

“………………そう……だね”

その時、外から何かしらの音がした。

「誰か部屋に侵入したのか?」

しかしこの音はエレベータが降りてくる音ではない。俺達が変えたシステムは、この短時間で簡単に破れるものではない……なら違う方法という事になる。そうなるとたった一つしか方法はない。そう緊急事態のシステムを作動させるという事だ。

“…………急いで体に戻ろう…誰か来る”




どこまでも続く螺旋階段……いくら下りとはいえ15階いや、もっと降りているが、まだ目的の30階まで遠い……。もう少し体力をつけておけば良かったと後悔しながらも足はどんどん下に降りていく。そうして降りていく間にも自分自身に自問自答する

………俺はなぜこうまでして、あの依頼人であるカイトに固執をしているのだろうか?いや、それよりも30階まで行って本当にカイトはいるのだろうか?。

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そう思っていた矢先に足がすべって階段から転げ落ちた。息を荒気ながら起き上がると目の前に幼い自分がいた。しかし今度は泣いていない幼い自分……。なぜいつものように泣いていないんだろう?なぜこんなに堂々としているのか?となぜなのかと考えていると幼い自分が自分に語りかけてくる

一一一行こう。決着をつけに……。

「……??なにに決着をつける?」

一一一自分自身に。

「……俺自身??」

一一一そう、どんなに思っていたって何も変えられないし過ぎた事も変えられない。

「……知っている。そんな事…」

一一一知っていても認めてはいない。認める為に…………変わる為に……行こう

「えっ?」

ふと気付くと30階の文字が目の前にあった。どうやら無意識に降りていたようだ。緊急事態用の崩れている壁から部屋の中の様子をのぞき見ると部屋の中はぎっしり置かれたコンピューターの機械設備ばかりで人の気配はない。中に入り部屋の中心の方に行くと鉄の台の横に人が動くのが見えた……その人物が立ち上がりこちらを見た時、思わず駆け寄ってその人物の名を口に出す

「カイト!!」

「……やあ、あんたか。よく来たな」

今までと口調が違うのだが態度も違う……簡単に言えば生意気で人を見くびった眼をしている感じと言えばいいのだろうか……。しかし何かがおかしい…。

「??……カイト??…なのか?」

と言った瞬間にカイトの左腕に気付き一歩あとずさりをしてしまう。一瞬、人の皮膚がはがれたかように見えたのだが……よく見ると細い線で作られている?……ようだ。左腕に向けられた視線と動揺した姿にカイトはなぜ俺が動揺したのか分かっているらしくズボンのポケットから長く白い手袋を取り出し左腕にはめてからズレ落ちないように金具で止め始めた。それが終わるとカイトは俺を見て

「……ここに来たのはあんただけなのか?」

「……ああ、そうだ。ハイデル氏に無理に頼み込んで……」

動揺しながらも返答する。しかしその動揺にカイトの態度は変わる事はなく

「やはり……昔なじみの頼みは断れないって事か?」

「!!……昔なじみってハイデル氏は……」

言い訳をしようとした瞬間カイトと眼が合い、その時すべてをカイトは知っているのだと理解した。

「……知って……いたのか?」

「……何もかも知っている。召し使い用の機械人形のトマを誰が所持していたかもね。だから俺達はあんたに依頼したんだ。全て俺達の計画通りに事は進んで……終わったよ」

「……終わった??」

その言葉に即座に視線を台に寝ている機械人形にいくが見た目は何も変わらないように見える……ただ頭からたくさんのコードがついている事だけが痛々しかった

「……何かしたのか?この機械人形に……」

「約束……だからな。人格のデータを破壊し、ついでに過去の記憶のデータもサービスで消去しておいた。目の前にあるのは何のデータも入っていない機械人形。………トマはもういない」


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