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-----それから数年の月日が流れ-----
目の前にあるさびれた屋敷の門には「売る家」と看板がかかっている。多分ダメだと分かってはいたが門を試しに押してみた……ギッ と音はするもののやはり鍵がかかっているので開ける事が出来ない。

「ここがあなたが探している召し使い人形がいた屋敷です」

後ろから声がする。小型の白い車にもたれかかりながら語りかけてきた男。見た目は25歳ぐらいで紺色のスーツを着てはいるが上着のボタンも留めずいるせいと黒く短かめの髪も髪の質のせいなのか毛がたってボサッとしている為か少しだらしなく見える。それでも見た目が悪く見えないのが唯一の救いと言えるかもしれない。時折まるいサングラスからは少し細めの茶色の瞳がこちらの様子をうかがっているのはやはり探偵という職業のせいなのだろう

「……とても静かですね」

ただ、つぶやいてみただけなのだが予想外にもサングラスを少し上にあげながら近付いてきて返答をしてきた

「……人の住んでいない空家なんてこんなものでしょう。しかもこれだけ広い土地と屋敷だ。滅多に買う人が来ないから余計静かなのかもしれないですね」

「…トマを買い取った人はなぜ屋敷も買わなかったんだろう」

一瞬、トマと言う名前を出した時、その探偵の男は依頼主が言ったトマが名前だと分からなかったようで一瞬、躊躇して首をかしげていたが、すぐに探している召し使い用の機械人形の名前だと気付き

「行けばわかりますよ。屋敷を買わなかった理由も含めてね」

“理由など分かっているさ!ほしいのは機械人形だけ!ただそれだけだ…そうだろ?”

頭の中に問いかける別の声…言っている事はたぶん…正しい

-------そう、分かってはいる…だけどもし違う答えがあるのなら聞いてみたかった……ただそれだけだ

「さて、お昼時だし食事でもしながら今後の件についてお話しましょう。カイト君」

依頼人の名前を呼びながら、にこっと微笑み車の助手席のドアを開け依頼人に入るようにうながした。

「はい、サリエルさん」

車の助手席に指示通りに座る依頼人の姿を確認してからドアをしめ運転席に座り車のエンジンをかけながら隣に座る依頼人の顔をちらっと横目でみる。

……ふう、なぜ俺がこんな子供のお守りをするはめに

そう呟きたいのをガマンしながら初めてこの依頼人に会った事を思い出す。そう…あれは5日ぐらい前になるのだろうか……

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町なかのビルの群れの中に安い家賃の古びたビルの4階に事務所がある。朝はいつもその部屋の4階から見える通勤ラッシュで歩く人波を見ながらコーヒーを飲むのが日課だった。

……俺もこんな家業をやめて普通にあの人波に入れたらどれだけ楽だろう…

といつものように思いながら今日もあるかどうか分からない依頼の予約のメールや留守録をパソコン(これもゴミの山から拾ったものだが)でチェックをしていた最中に“コンコン”とドアを叩く音が聞こえた。あまりにも小さい音だったので気のせいかとパソコンの画面を見なおした時ドアが開いて子供が中をのぞく

「あの……サリエルさん…ですよね?」

「そうだけど…普通は探偵事務所ですよね?…だろ?」

「あっ、でもドアに探偵事務所の看板があるし……」

そりゃそーだ!と思わず突っ込みをいれたくなったが子供相手に突っ込みを入れる気などなく子供に言われた不機嫌さだけが心にこみあげてくる

「……で何かよう?」

子供が来るのは別に珍しい事ではないが大半は親同伴が多い。こうやって1人で来る子供のほとんどは料金は後払いとか言って自分が飼っていた犬や猫を探してほしいなど言ってくるが、その実はお金がなく払えないきているからた質(たち)が悪い。やはりプロに頼む以上は料金をもらわない事にはやってられないし「甘えるなよ!」と何度言って追い返した事があるか数えたらきりがない……。

「予約をしていたカイト・レクノアです」

一瞬言葉を疑った。

「ちょっと待って」

急いで予約データを見てみると確かに予約が入ってる……。しかも料金は先払い済み。キーボードを叩いて銀行口座にアクセスをしてみると……お金が入っている…。しかし昨日チェックをいれた時には今日は誰も来る予定がなかった……はずだ。昨日の記憶をゆっくり考えてみたい所だが目の前にある現実から逃避するわけには行かない。

「…失礼しました。お待ちしていましたよ。えっと……」

一応笑顔で答えつつもひきつっているのが自分でも分かる

「カイトで結構ですよ。サリエルさん」

「じゃあ…カイト君…」

目の前にあるお客様用のテーブルとソファに手を向けながらソファに座るようにうながし横で画面の予約内容を見る

「2年前に倒産した名家の召し使い……人形を探して…」

驚きながら(初めて読んだ依頼内容だし)

「……探すのですか??」

もう一度再確認の為に聞くと依頼人はソファに座りながら

「はい、その通りです」

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