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カイトはトマに再確認をするかのように

「……人格のデータを破壊する事は出来る……が機械のボディ(身体)を粉々に……とかは出来ないぜ?」

「データガ私ノ人格デ有リ私自身、器(うつわ)ノ身体ガ残ッテモ、ソレハモウ私デハ無イノデス」

その返答を聞いて、決意に満ちた答えを返す。

「わかった。人格の破壊を引き換えに記憶のデータをもらう。お前の役目が終わる時また俺は来る。俺の名は“カイト”だ。俺の存在をどんな事があっても消去をするな。」

「私ノ名ハ“トマ”私ヲ忘レナイデ下サイ……カイト」



そしてそのトマのデータの過去の記憶を観ている者……それはデータとしてその中に存在をしている現在のトマとカイト。2人は記憶を見ながらあの時の約束を再確認する。トマは隣にいるカイトを見ずに

「覚エテイイマスカ?アノ時ノ約束ヲ一一一一一」

カイトも隣にいるトマを見ずに返答する

「一一一一一覚えている。だが来るのが少し遅れてしまった……悪かったな」

その答えを聞くとようやく隣にいるカイトを見て

「私ノ中(機能)ニ、ココマデ入ッテ来レタノハ貴方ガ初メテデス。シカシ、ソノオカゲデ分カリマシタ。貴方ハ……ソノ身体ダケデハナイノデスネ?」

その質問にカイトは答えずトマを見て手をさしのべる

「約束の時は来た。トマ…お前のデータをもらう。そして……人格を破壊する。いいな?」

トマはその言葉を聞き、さしのべられたカイトの手を取り語るように

「……長カッタ…ト言ウノデショウカ…コウイウ場合……機械ハ人ト違ッテ寿命ガ無イ。目的ヲ持ッテ生マレタ機械……シカシ目的ヲ果タシタ機械ハ何体イルノデショウカ?又目的ヲ果タセズニ壊レタ機械ハ何体イルノデショウカ?」

その言葉を聞きながらトマの中で何かが侵入し記憶のデータが取られていくのが分かる。そして、それと同時にトマの人格が徐々に消去していく。

「……機械はそれでいいんだよ。ただ目的を果たす。それが俺達が生まれた理由だ。目的を果たした後は自分が思うようにしていいんだと俺は思うぜ」

「……アリガ…ト…カイ…ト」

トマは人格が消去されるにつれ、自分自身の基本である機能を忘れていく。それは言葉であり自分が生まれた理由であり主人である人の記憶……それ故に今まで見ていたトマの過去の記憶のデータも徐々になくなり途切れ途切れな画像になっていく。



その頃より少し前にさかのぼるがサリエルは屋敷に到着していた。しかし屋敷の主人であるハイデル氏は理解を示す所が怒りだす始末で話が一向に進まない。サリエルはイライラしながらも根気よく説得する。出来る事ならハイデル氏をほっといて探しに行きたい所なのだが一番可能性のある召し使い用の機械人形の居場所が分からない。それに探しに行った所で高い金を積んで買った機械人形が屋敷の中を探すだけで見つかる所に置いているとは到底思えない。やはりここは持ち主であるハイデル氏を説得するしかないのだが説得するだけの確証がないので半分わめくだけとも言える交渉しか出来なかった。

「だからここに来る前から電話で言っているじゃないですか!!依頼人のカイト君がいなくなったので探してほしいと!!なぜ信じてくれないんです?」

「当たり前だ。何を信じろと言うんだ??この屋敷のセキリュティは完全だ。お前が来る前にも確認したが人が侵入した形跡はない。しかもあんな子供に気づかれずにこの屋敷に侵入するだけの事が出来ると思うのか??えっ?」

「確認したのは自分の眼ではなく機械ででしょう??私は自分の眼で確認したいんです!!」

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自分でも自分の言っている事がおかしい事は分かっている。しかしカイトに初めて会った時、確かに無かった依頼が存在していた事など機械に関しては今はなぜか信じる事が出来ない。
カイト……なぜだろう俺は君を今まで人として見てきたのかさえも今は自信がないんだ……たぶん…今ここで君を見つけられなかったら……俺はきっと君にはもう会えないだろう…そう確信さえもしているんだよ
そんな想いが込み上げ、そしてそれをなぜ分かってくれないのかと怒りにもにた気持ちが胸に込み上げて来た時、思わず言ってはいけない言葉をハイデル氏に言ってしまっていた

「一一一 頼む!!トニー!! 一一一」

今まで言い争っていた言葉が途切れた。トニー……昔、ハイデル氏の彼をそう呼んでいた。それは仲間であり友人であった頃……今は立場も状況も違い友人などと言える立場でもないと言うのに……。思わず言ってしまった事とは言え今は謝るしかない

「すみません。ハイデル氏」

その言葉を聞いているのか聞いていないのかは分からないがその名前を聞いてハイデル氏のこぶしが震えている。

一一一卑怯だ!!なぜ今その名で俺を呼ぶ!!

心の中で叫び、そしてその名前を聞いた時、一瞬泣きそうになった自分自身が余計に腹ただしかった。そう今の人生に後悔などしていない。例え今、過去に戻る事が出来たとしてもきっと現在の自分がそのままいるだろう。……泣きそうになったのは今まで捨ててきたものや無くしたものが多く…それが少しだけ返ってきたような気がした…そう、ただそれだけの事だ。

「……サリエル、お前の望みを叶えてやる!!召し使いの機械人形にも会わせてやろう!!だが!!その代わり二度とその名で俺を呼ぶな!!いいな?」

ようやく行ける喜びと、とうの昔に割り切っていったはずだった気持ちが再びハイデル氏の言葉で再確認した事がなぜか悲しかった。しかし状況がどうであれ前に進んだ。今は依頼人であるカイトの事のみ考えよう。

「はい、ありがとうございます。ハイデル氏」

「付いて来い!!」

そう言うと電話でセキュリティを管理している部屋に連絡を取りサリエルがついて来ているのかも確認せずに屋敷の裏に早足で出て行く。広い裏庭のまん中には頑丈な鉄の柵が建物の回りを囲んであるのが見える。そこまで早足で歩いて行くと柵の扉に付いているシステムにカードと暗証番号を入力をし赤外線が張られているセキュリティも解除して通り抜ける。ようやくコンクリートの建物の中に入るがその間さえもお互いに会話をする事もなくただ沈黙と足音だけが耳に残る。しかしその沈黙もエレベータに着くまでだった。エレベータに乗る為にシステムにカードと暗証番号をいくら入力しても

一一一一一一入力ガ間違ッテイマス。モウ一度ヤリ直シテ下サイ一一一一一一

とエラーが出る一方だった。

「だめだ。間違っているはずがないのだが。」

セキュリティを管理している部屋に電話をして問い合わせたがカードや暗証番号は変更されていないと言う返事しか返ってこない。サリエルに今の状況を説明をする

「ダメだ。どこかシステムがおかしいらしい。今、管理会社に電話をして来てもらうよう連絡しているが非常事態ではないので明日になると言っている。エレベータが使えないか動くようになってから改めて来い!」

しかしサリエルはその場から動こうとはせず

「非常の時の為の通路があるはずだ教えてくれ」

「……地下30階まで歩いていくと言うのか?それに非常事態の状況にならない限り扉の通路は開かないシステムだ」

「非常事態だと管理システムに連絡すれば出来るだろう?」

その言葉に驚くハイデル氏。いくら依頼人の為とは言え勝手に行動をしている者になぜそこまでする必要があるのかと疑問と不可解さが隠せず声をあらげて

「?なぜだ?一体なぜそこまでする??依頼人がいるかどうかも分からないんだぞ?」

「頼む!!すべての責任は俺がとる!!」

上手く説得する言葉が見つからない今はこれしか言えないのだ。


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