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「……記憶は残っている…」

とつぶやいたかと思ったら急に扉の方へと向かって歩いてゆく

「?カ…カイト君?」

カイトの急な行動に思わず声をかけたがカイトも状況は分かっているらしく

「今日は会うのは無理なんですよね?」

「そうだけど……」

機械人形の主人であるハイデル氏を横で問いかけるように見るが

「ふん!。今日はいくら言った所で会わすわけにはいかん。早く帰れ!!」

そっぽを向くハイデル氏を見て思わずため息が出た。昔から彼を知っている為こういった状態の時は何を言っても無駄だと分かっている。カイトもそんな彼に何かを言うつもりもなく扉を開けて出ていく。そんなカイトの行動に続くようにハイデル氏の挨拶もそこそこにして部屋から出てていく。確かに会うのは無理だったが依頼人のあまりの粘りのなさに少々あっけに取られながら後ろから問いかける。

「いいのですか?会いたかったんじゃ……ないのですか?」

会えないと分かっているのに何て無頓着な質問だと分かってはいる。しかし依頼人であるカイトの真意がそれ以上に今は知りたい……

「いつか……あなたが会わせてくれるんでしょう?サリエルさん」

今回の不手際に攻める事もせず穏やかに答えるカイト……

「も…もちろん!!仕事ですし…必ず会わせて見せます!!」

……おれは…信頼されているのか?と疑問に思いつつも依頼人のカイトはにっこりと

「よろしくお願いしますね。サリエルさん」

穏やかな依頼人の顔になぜか心無しか不安がこみあげる

……なんだ??この不安は……??

地下にある駐車場の方へと行こうとした時、カイトの足が止まり地下ではない別の外の出口の扉の方を見て

「サリエルさん。時間もある事だし僕はしばらくこの屋敷の周りを散歩しながら帰ります」

叉もや予想外の依頼人の行動に驚きを隠せないが受けた依頼もこなせない罪悪感もあり

「あっ…でもこの辺はほとんど人気(ひとけ)もなく木々ばかりで何もない所だし……行くのなら一緒に付き合いますよ」

「いえ、1人で行きたいんです」

強い言葉ではないが揺るぎのない意志のように聞こえる一言。

「しかし……」

「大丈夫です。まだ日も明るいですし」

言いながらサリエルを見て微笑む。そんな依頼人の顔を見てため息をつきながら

「……分かりました。しかし何かあったら困るので夕方には帰っているかどうか連絡させてもらいますがいいですか?」

「もちろんです。ありがとうございます」

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不安はあるが今は仕方がない。夕方とは言ったが向こうに着いたらすぐに携帯に電話をしてみよう。自分のこれからの行動を考えながら駐車場に向かおうとした時

「サリエルさん」

依頼人のカイトが急に後ろから声をかけたので一瞬、心変わりをしたのか?と思って振り向いたが又もや予想外の言葉を聞く事になった

「機械は……データが命です」

どうやら違う話題のようだ。がっかりはしたものの

「???……命…ですか?」

「今まで蓄積されてきた人格のデータの機械人形も今までのデータが消えれば……その機械人形はもう前の機械人形ではない…それはどの機械でも同じ事……例え人にどのように写ったとしても……」

「……?それは、あなたが会いたがっていた機械人形のトマ……の事ですか?」

なぜ急にそんな話しをするのかと思いつつも心臓はなぜかドキドキして自分自身の声が震えているのが分かる。怒りでも悲しみでもない……ただ…震えているだけ…。それに気付いているのかどうかは分からないがカイトの言葉が続く

「……特別な物を差しているわけではありません。人は魂がありそれは自由なもので生きている者に語りかけてくるものだと聞きました。しかし機械は何も語らない……あなたが心にとどめていても消えたデーターは何も語りはかけては来ないのです」

「……そう……ですね。カイト君」

 一一一一一これが自分が望んでいた答えなのだろうか?とどこかで声がする。だが今の自分には何も言葉がでない……ただこの依頼人である少年の言葉にうなづく事しか出来ないのだ。今はただそうする事しか出来なかった。




サリエルが乗っている車が小さくなっていくのを屋敷の門から見届けながらカイトの頭の中で自分とは違う別の声が響く……

“データが命か…よく言ったものだ。果たして俺達がひとつになった時、今の俺達はいるのかな??それともいないのかな??”

「……今いる僕でさえも昨日の僕ではない。それは君も同じ事……僕達は人の世界を学びそして更新しいく。僕達が1つになる事も……きっと同じ事だよ…きっと……」

一瞬の沈黙があった。その沈黙の意味する所は分からないが答えはきっとその時でしかわからない答えだとお互いに分かっているのだろう。そして本来の目的を思い出すかのように頭の中で声が響く……

“さて…トマに会いに行くとするか”

その声に賛同するようにカイトはハイデル氏の屋敷にもう一度戻る。今度は屋敷の中には入らずに門の近くを探索して人気のない茂みの場所を見つけてしゃがみ込む。そして左腕の肘よりも少し上の方までしている白い手袋に手をあてて手袋を止めている丸い留め金をはずした。その手袋に隠されていた肘から指先にかけて一目で機械人形と分かるもの…嫌それよりもひどく見えるかもしれない。なぜならその部分は人の皮を剥がした筋肉のように見えるからだ。線のような筋肉のような機械……他の部分は人のように見えるのにその部分だけがあまりにも異色に見え逆に痛々しく思えるのは気のせいだろうか?そして筋肉の線のように見える手を門の壁に当てる。その光景を見た者はきっとその手が壁に入り込んだように見える事であろう。だが間近で良く見たとしても果たして見えないほどの細かい線のようなものが壁の中に入り込んでいると分かるのであろうか?

「さて、まずは屋敷の防犯システムのプログラムから行くよ」

きっと彼が何をしているかどうか分かる者はいないであろう。いやそれよりもカイトが防犯システム…いや屋敷に組み込まれている機械のプログラム全てを自分のものとしている事に屋敷にいる誰か1人でも気付いている者が果たしているのであろうか?

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