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その日はとても静かで聞こえる音は木々のざわめきとアスファルトを歩く自分の音しか聞こえない。ふと後ろを振り返ると町並が小さく見える。街外れにある墓地の道のせいなのか昼間の陽気も良いというのに人気もない。しかし10分も歩くと道路の脇に黒い車がたくさん止めてあるのが見えはじめた。

……葬式?

高い柵の向こうから神父の説教が聞こえて来る。耳の感度を良くして説教を聞きながら足を止めて考えてみた。

-----人には魂があるとマスター(主人)が言っていたが僕には理解が出来ない。眼に見えないし感じる事も分析する事も出来ないものをなぜそこまで信用するのか?

そう考えていると同時に頭の中で別の声が

“理解など出来るものか!人は不可解で矛盾したものだ”

「お前に言われたくない!」

同じ体を共有しているから声を出さなくても聞こえている。しかし分かっていても強く否定をしたいが為に声を出してしまう

------なぜ僕たちは……

何度マスターに同じ質問をした事だろう。1つの身体に2つの意志が存在している僕達。理由は不可解ではあるがそれが僕たちが生まれた目的でそれがなければ僕たちは存在しないし存在する理由もない。だから僕達はその目的の為に進むしかない。そう考えながらしばらく歩き始めると、まだ少し先だが墓地の入り口の柵の右側と左側に横一列で並んでいる黒服を来た機械人形が数10体ぐらい起立姿勢のまま無言で立っていた

“金を持っている人間は他人に今の自分の基準をみせたがる者がいる…これが良い例だとは思わないか?”

頭から聞こえる声を無視して機械人形を見ながら進んで行く。どの機械人形も召し使い用なのだか、やはりどの部分にお金を使っているのかが人によって違う。例えば並んでいる機械人形の1体を見ると頭脳を優先のためか体の部分は機械っぽく見えている。そして別の1体に眼をやる。見た目を重視するために顔の部分を人により近く作っているのがよく分かる                                  

「何カ御用デスカ?」

とふいに墓地の門にいていた機械人形が語りかけてきた。語りかける前からその召し使いの機械人形が自分を見ていたのは分かってはいたが別に気にはしなかった。なぜなら機械人形は周りに人(主人がいない場合)がいない場合はまず必要事項を取り込んでから頭の中でデーターを解析しながら、その状況に応じて判断や行動を起こさなければならないからだ。
他の召し使い人形が動かないと言う事はこの場所における責任はこの語りかけてきた召し使いの機械人形に一任されているということになる。

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「すいません、珍しかったもので……」

あたりさわりのない返事をしながら語りかけて来た召し使い用の機械人形をみる。……全体的な作りが細かい。顔はそこに並んでいる機械人形とそう違いはないように見えるが肌や短い黒い髪の質が微妙に違う。またちょっとした動作をする時の黒い眼やまゆ毛が繊細に出来ている。そしてその事を証明するかのように軽やかな風が吹くと他の機械人形とは違い髪が短くとも軽やかに流れ黒い瞳はふと眼を閉じてみせた。

一一一良く出来ている……がどこか古さを感じる…

と思っていた矢先に急にその召し使い用の機械人形が近付いてきて

「アナタハ……機械…?」

と顔を近付けて来た。

「!」

……まさか?

動揺とともに頭の中で分析が開始される。見た目からは機械とは判別出来ないように造られているはずだ。それが証拠に今までの道のりで確かに機械人形とばれた事はあるが、それは見た目ではなく自分の行動やその時の状況応じての時だけだ。このように今出会ったばかりの者……しかも機械人形に一一機械が僕を機械として認識するのは、よほどの技術が必要とするはずだし左腕の上の方までしている長い手袋は止め具ではずれないようにしている。自分が機械人形であると証明できるものを計算してみた……しかし見当たらない……はずだ。

“おもしろいな、この召し使いの機械人形は”

頭の中で別の声が言っている。だが、そんな言葉を返す余裕もなくただ解析不能なこの現状にどうしようもなく、ただその場で立ちすくむしかなかった。

とその時お互いの瞳があい、その瞬間に風が吹いた。それはまるでその場にいる2人を揺さぶるかのように一一一一。

一一一一そう、それが初めての出会い…あれから何年経とうとも今もすぐに蘇る記憶……機械ゆえに忘れるという事はないが記憶というプログラムに特別に残っている男性型の召し使い人形……彼の名は  

-----トマ。

そう機械には名字や本名などはいらない。呼び名という名前があればいいのだから。                            

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