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その頃トマの記憶はある程度まで進んでいた

マスターと呼んだ最後の人の記憶 一一一一一一一一

現在仕えているマスターは私がマスターと呼ぶ事を禁じている

「トマ、この子が私のかわいい息子なのよ」

言いながらベビーベットで寝ている赤ちゃんを私に見せる

「ハイ、シェリー…カワイイデスネ」

これも人に仕える為に造られたプログラムの1つ…カワイイ…果たしてその意味が分かる時が来るのだろうか?

「ここに、あなたを呼んだのはね。この子をトマ、あなたのマスターにする為なの」

寝ている赤ちゃんの頭をなでながら用件を言う

「…了解致シマシタ、シェリー」

命令を承認する

「……あなたは……そう言うと思ったわ…」

少し寂しそうにつぶやくマスター。私はその状況を判断してマスターに問う

「……私ハイケナイ事ヲ言ッタノデショウカ?」

そう問いかけるとマスターは首を横に振り私を見る

「いえ、トマが悪いわけではないのよ……私が機械以上の何かを期待したのがいけないのよ……ねえ、トマ…私がマスターでなくても…私達は友達……よね?」

……友達…今まで仕えてきたマスターから何度か聞いた言葉……
意味は分かるが理解が出来ない言葉でしかない

「…仕エル方ヲ優先的ニ行動スルヨウ…プログラムヲサレテイマス」

この答えは多分マスターが望んでいる答えではない事はわかっている。だがそう理解をする度に私は言いたい言葉をいつも頭の中でくり返す
一一一一一一人は何を望み何を期待しているのだろう……。私はプログラムされた機械でしかないと言うのに一一一一一一。

幼いマスター。毎日、泣き笑い怒り…今あるすべての感情をむき出しにしてくる。私はそんな行動に対応が出来ず以前マスターでありマスターの母であるシェリーにどう対応して良いかを聞いて行動をしていた頃。

シェリー……幼いマスターと私に笑顔を残して出かけた女(ひと)。出かけるその後ろ姿をマスターと共に見送った2時間と8分後にシェリーは事故にあい………戻らぬ人となる。

まだ死を理解出来ないマスターを見て機械人形の私が今確実に分かる事はシェリーが亡き今、何も知る事もない幼いマスターが私の最後のマスターになると言う事と私の役目が終わる時が来ると言う事だけ。


…ウイ〜〜ン…エレベータが降りてくる音が聞こえた為データのチェックが途中ではあるが停止させる。本当は誰が来たのかを知りたい所だが頭に無数のコードが繋がれて鉄のベットに寝かされている現状では頭を動かす事が出来ない。エレベーターの扉が開き誰かが歩く靴音が聞こえる。どうやら1人だけのようだ。靴音も人によって特徴はあるのだが靴にもよるので特定の誰かまでは分からない。ただ今回の靴音は今までと違い小さくそして早い。その靴音が近付き、ちょうど自分の顔の右横で止まった時だった。懐かしい声がひびく。

「……トマ、僕を覚えているかい?」

顔を動かす事は出来ないので眼を右側にいる人物へと動かし人物の確認をする。その人物は最初に会った時と何一つ変わっていない姿のまま……懐かしいあの頃の…まま

「……カイト…、ヤハリ……君ハ機械人形ナンデスネ」

返って来た言葉に微笑みながら言葉を返すカイト

「……知っていたんじゃなかったのかい?」

「……知ッテイタ…ダガ君ハ、アマリニモ……人ノヨウニ見エル」

と、その時カイトの中で何かが変わったのを誰が分かるだろうか?そして今までの口調とは違う言葉がカイトの口からでる

「それでも俺達は機械でしかない。そして俺は来た。お前との約束を守る為に一一一一」

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そう言うと頭の中でいつも表(おもて)にでていた声が聞こえる。

“そう……僕では出来ない約束だから……”

今、カイトは見た目はそのままだが頭の中の声の者と今まで行動していた者が入れ替わった瞬間であった。カイトは左腕の指先から肘よりも少し上の見た目は皮膚の皮をはぎとったような筋肉の線のような機械の腕をトマの頭に入れていく。

トマは眼を閉じ身をまかせ遠い記憶のデータをまるで夢を見ているかのように思い出す。それはカイトと出会った時の記憶。まるで昨日の事の出来事のように……。


カイトと最初に会った時の記憶 一一一一一一一一

その場所は墓地の門の前での出来事だった。葬儀に出ている御主人達を待つそれぞれの召し使い用の機械人形達がその場で列で並んでいる。葬儀が終わるまで、その場を任されている召し使い用の人形のトマと呆然と立ちすくむカイト。しかし、トマも戸惑っていた。なぜ機械人形などと言ったのか?どう見ても人にしか見えない子供なのに……自分自身に対して不可解に思いながらも

「スイマセン、私ノプログラムガ少シオカシイヨウデス。機械ナドト失礼ナ事ヲ言イマシタ」

「くくっっ……別に勘違いはしてねえよ。」

さっきまでと話し方の口調が違うので首をかしげ状況を把握しようとするトマ。そしてその状況がさも当たり前のようにカイトは

「今、俺とあいつの人格が入れ替わっただけだ。気にするな」

その答えに戸惑いを感じながらもトマは少し考え分析する。まず彼は機会人形であると言っている事、口調や態度が変わったのは……

「……1ツノ体二2ツノ思考能力ガアルノデスネ」

そう言いながらカイトをまじまじと見つめ言葉を続ける

「……貴方ノヨウナ機械人形ヲ見ルノハ初メテデス。」

「俺もお前のような機械人形は初めてだ。」

そう言いながら逆にトマをまじまじと見つめ言葉を続ける

「一一一一一お前のデータを俺にくれないか?もちろんコピーするだけだから害はないぜ」

「コピー……貴方ニ、私ノ記憶(データ)ガ取リ込メルトハ思エマセンガ?ソレニドウシテ私ノデータヲ必要トスルノデスカ?」

どう見ても取り込めるほどの容量をこの機械人形が持っているとは思えない。

「やってみたら分かる事さ。お前のデータが俺達に必要だと判断しただけであって実際に必要なのかは取り込んでからしか分からない」

自信ありげな、その言葉を聞き

一一一一一私が思っている以上のものを持っているということなのか?もしそうなら私の望む事も出来るのだろうか?

少し考えてみたが今の状況を解析するほどのデータもないので聞いてみる

「……貴方ハ、データヲ破壊スル事モ出来マスカ?」

その質問に驚く事もなく返答を返す

「どっちかと言うとそっち(破壊)方面の方が多いかな俺の場合」

その言葉に納得をしたのかどうかは分からないがトマは少し眼差しを遠くに向けながら

「……今、葬式ヲシテイル方ガ以前ノ私ノ主人デス。今ノ主人ハ幼イガ、イツノ日カ死ト言ウ時ヲ迎エル事トナルデショウ。ソシテソノ時、私ノ役目ガ終ワルノデス」

今度はその眼差しをカイトに向けながら話しを続ける

「役目ガ終ワル…ソレハ私ガ存在スル理由ガ無イト言ウ事デス。私ハ私ノ役目ヲ終エタ時、私ハモウ存在シタクハ無イノデス」

「…その時が来たら…もう動きたくはないのか?」

「…動ク理由モナク動クノニ何ノ意味ガアルノデショウカ?」

“……僕達も僕達の役目の為に動いている……”

頭の中でもう一人がつぶやくように言う。その言葉を聞いているのかどうかは分からないが少しの間、沈黙が続いた。

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