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その場所は外の光りがさすことのない地下の部屋。だいぶ地下にあるのだろう部屋の中は外の音は一切聞こえず聞こえるのはその部屋にいる人々の交わす声と部屋中に置かれたコンピューターなどの機械設備の音だけ。

「ダメですね、この機械人形は」

白衣を身にまとった数人の男性の中から一歩前に出ている男が言った。見た目は40歳前後で白髪が見えかくれしている小柄な科学者がどうやらその中のリーダー格のようだ。手術室のベットのような鉄の台の上に顔を上にむけて寝るような姿勢の機械人形を見ながら隣で自分と同じようにその機械人形を見つめている高そうなスーツを着こなしている少し太った中年男に語りかける。

 --------またか

と中年男は言いたい所を口には出さず、ため息で返事を返す。そのため息をどのように受け取ったのかは分からないが科学者はダメな理由の説明をし始めた

「この機械人形の頭脳は市販品の機械人形とは違って独特なんです。」

そう言いながら機械人形の頭の内部がさらけだされた方に眼をむける。コンピューターや機械設備に繋がっているコードがその内部にいっぱいさしこんでいる為少し中が見えにくいが、その中で特殊な形をしている部分に指をさしながら言葉を続ける

「この部分が記憶のメモリーのようなのですが見た事がない仕組みなので下手に触ると記憶回路がダメになってしまう可能性があるのです。記憶のデータだけ取り出そうとしてみたのですがプロテクトがかかっていてパスワードの解読をコンピューターでしてみても見つかりません。パスワードは独自で作られた記号と思われます。それが分からない限り無理ですが、もしかしたら……」

と科学者が言いかけた所を中年男が言葉をさえぎって

「砂漠の果てにあるという機械都市「3PAI(スリーピーアイ)」に行けというのだろう?違うか?」

と半分怒りにも似た言葉をリーダー格の科学者に投げ付ける。自分が言おうと思っていた事を言われた事とその怒りにも満ちた言葉で驚きを隠せない。しかしそんな動揺した姿を見たからといって男の態度は一向に変わる事はない

「どいつもこいつも!!どれだけ高い金を積んで雇っていると思っているんだ?俺が聞きたいのは〜出来ませんでした〜の言葉じゃない!!」

そう言いながら今まで雇ってきた人達の無駄な金と時間が思い出されてきて又もや怒りが再発しそうになるのを懸命にこらえながら

「いいか!「3PAI(スリーピーアイ)」がどれだけ遠くて入りにくい国か分かっているのか?その手間と金を考えればお前達を雇う方が遥かに安いと思っていた。しかし有名だと言う者や凄腕と言われる者達をいくら呼んで来ても……いつも結果はこれだ!」

そう言いながら今いる科学者達を一人も逃すものかという眼で睨み付け

「しかも最後の言葉は新しい頭脳を入れ替えるしか手はないときたもんだ!俺がほしいのは見せかけだけの人形じゃない!!今まで名家で仕えてきた知識が入った人形がほしいんだ!わかるか?それなのに、この機械人形ときたら」

そう言いながら台の上にいる人形に視線をかえ睨み付け

「俺は御主人さまではないと言いやがる!!」


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怒りのほこ先が原因の機械人形にいくが機械人形なので動揺もする事もない。いや自分がなぜ怒られている事さえ分からないのではないだろうか?。……男は今さらながら高額な金で買った事が悔やまれる。しかし返品は出来ない。

-----確かにこの機械人形を買う前にこの機械人形について説明はしてもらってはいる。しかしこれほどとは……

その時の機械人形について説明したスーツ姿の男の言葉が蘇る

「この機械人形ですが知識や記録などは消去されずに残っています。ただ、どういう仕組みかは分からないのですが「主人を認識して仕える」という記憶操作が独特で亡くなられた先代はそれを教えず急な事故で逝ってしまった為、誰も操作方法は分かりません。こちらの方でも調べては見ましたが、製造をされてからもう100年以上は経っているという事以外は誰が造ったのかも分からない状況です。それを了解した上で書類の事項を良く読んでサインをして下さい」

今にして思えば考えが浅はかだった。破産をしたと言えども名家は名家だ。主人と言わない機械人形をそのままにするはずがなく何らかの手は尽くしたはずだと考えるべきだった。しかし成り上がりでここまで来た自分にとっては魅力のある機械人形だった事も確かなのだ。今後行われる会議やパーティで名家だった機械人形を連れて歩くという事は自分自身の今の地位を象徴するにふさわしいはず……であった。そう「御主人さま」と自分を呼びさえすれば……。

「あの……ハイデル氏…」

と申し訳無さそうに科学者はその男の名を言う。
男も自分の名前を言われてふと我にかえるが今も変わらない状況を再確認するのみ。だが役に立たない科学者達に言う言葉は決まっていた

「……さっさと帰れ……」

「えっ??」

一瞬、何を言っているのか分からないと言った感じの科学者達にもう一度同じ言葉を付け加えて今度は良く分かるように声も荒げ

「ささっと帰れと言っているんだ!!これ以上、役に立たないお前達に払う金などない!!分かったか?!」

その怒りにも満ちた言葉に今の状況を把握した科学者達。結果はどうであれ自分達なりにがんばった事に対しての態度がこれかと思いつつも所詮は雇われの身……不満は残りつつも素直に従って部屋を出ていくしかない。

科学者達が出ていって聞こえるのは機械音のみ。その中でようやく落ち着いてきたのか今後この機械人形をどう対処しようかと悩んでいるその時であった。

 プルルルル〜〜

スーツのポケットから電話機の音が鳴り響く。画面付きの電話機を胸ポケットから取り出してボタンを押すと相手の顔が出て来て用件を言う

「御友人のサリエル氏が来られましたが、いかが致しましょうか?」

----友人なのではない!俺が雇ってやっている探偵だ!

と心の中で叫んではいるものの言えないのは、まだ友人だと思っているからなのか、それとも昔の自分を知っているという負い目からなのか……?

「ああ、そう言えば機械人形を見に来たいと言っていたな。分かった、今から上に上がるから広間で待たせておいてくれ」

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