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博士の話は続いて行く。

「3PAI(スリーピーアイ)から取り寄せたデータをルチアに取り込みながら機械人形の調整と対応をしながら機械部品の動作確認や調整そして新しいデータの再取込みをしなければならず結局それから2年ぐらいの年月をつかったよ。そして……あの出来事が起こったのだ。」

博士はまるでその時が今まさに起こったかのように語り出す。

「-----そうあれは…ルチアの頭に埋め込んだメモリーの機能調整をしていた時だ」

台の上で静電気防止用の布を顔から下の方にかぶせられているルチア。頭のメモリーの部分を見る為ルチアは台に顔を向け後ろの頭の部分が天井の方を向いている状態である。頭のメモリーの部分にはデータを取り込む為のコードが何本か差してありそのコードは台の横にあるパソコンのテレビ画面の隣に並んであるパソコン本体の3台にコードはそれぞれに差し込んであった。

『うむ。まずは3PAI(スリーピーアイ)から新しく取り寄せたデータをルチアに取り込ませてから次は必要事項の入力を……』

博士はテレビ画面を見ながらキーボードを操作しカチカチと必要事項の入力をしていく。そして、その操作が終わろうとしていた……まさにその時に出来事が起こった。画面が急に変わり無数の数字の配列が止めどなく上から下へと流れて行く。突然の出来事に博士は最初は見ているだけだったが、ある程度落ち着いてからキーボードに触って状況の回避を試みてみるが画面には何の変化もなく、ただデータだけが流れていく。

--------- 一度、電源を切るべきか?それとも様子を見るべきか?

このデータがルチアのメモリーに流れているのは間違いはない。だがしかし電源を急に切った事によって機械に何らかの異常があっても困る……がこのままの状態も……困る。こういう時に近くに1人でも人がいたら……。今程、独りが心もとない事はない。もし誰かがいた事によって間違った選択を選んだとてしても、このまま見ているよりも何か行動が出来たのだと自分で納得出来たのかもしれないのだから------。

……結局そのまま何も出来ずに画面を見続け……ようやく画面が正常に戻る。その状況が起こってからは時計も見ておらず(考えてもいなかったが)自分の感覚の時間では1時間以上も経っていたかのように思えたのだが最初の作業からの時間を思いだすと本当はもっと短かい出来事だったようだ。

『……ルチア…』

ルチアに近付きコードを差し込んでいるあたりを見てみるがデータの問題なので、やはり見た目では分からない。ルチアの状態が一体どうなっているのか?そして今一体何から始めていいのかも分からない。いろいろと考えていると又時間が過ぎてゆく。ふと、どこからか言葉らしき音が聞こえて来る。

……??一体どこから……?

この部屋には自分しかいないはず……いや!もう1人いる。視線がベットで仰向けになっている機械人形のルチアの方へといく。

『……デ…デスカ……?』

仰向けになっていたルチアが起き上がりつつ言葉を言っている。だが博士はルチアが言っている事よりも目の前で動きつつある事の方が重要で機械人形を後ろにパソコンの画面に向かい動きを停止さようとキーボード操作をおこなうが画面は「エラー」表示ばかり。

キーボードに自分とは別の手が出て来て後ろを振り返ると、そこには先程ベットで仰向けになっていた機械人形のルチアがいた。

『ひっ!!儂をどうするつもりだ??!!』

博士は得体の知れない機械人形のルチアに恐怖しながらルチアの手を払いのけ逃げようとしたが恐怖で体が思うように動かず、その場で尻餅をつくようにへたり込む。ルチアはその場からは動かず博士の行動を目で追いながら首をかしげ博士の状況を見て言葉を選ぶように

『……ダ…大丈夫…デス。私ハ危害ヲ加エマセン。安心シテ……下サイ』

よく出来ている機械の顔が優しい表情で微笑む。顔以外はほとんどが鉄の身体なのだが今のルチアの体の部分は静電気防止用の布をまいている為、鉄の身体は気にはならず、その優しい表情のせいなのか少し落ち着きを取り戻し冷静になっていく博士。

-------どうやら儂に危害を加えるつもりはないようだが……。しかしこのルチアの頭の中には未知のデータが入っている。安心は出来ない。まずは自分が入力したデータがまだ生きているかどうかの確認から…か……。少し考えながら

『……お前……自分の名前を…言えるのか?』

『ハイ、御主人様。私ノ名ハ“ルチア”デス。!……少シ…待ッテ下サイ』

自分をルチアと言う機械人形は博士からパソコン画面に視線を変え、先程まで博士が打っていたキーボードで操作をし始めた。

『……何をしているんだ?』

その博士の問いに答えながら手はキーボードを凄い早さで打っている

『外カラノ侵入ヲ防イデイマス』

その答えに博士はあぜんとしてしまった。今、自分の目の前にいるお前(ルチア)もそうなのでは?と言いたい所だが……そんな事さえも言えないまま、ただ機械人形のルチアの操作を見ているだけ。ルチアはそんな博士の事は気にもせずにキーボードの操作を終え次は自分の頭のコードと繋がっているパソコンの本体の方へと行き繋がっているコードを次々と引き抜いていく。だが頭のコードの方はそのまま抜かない状態のまま今度は尻餅をついて座っている博士の前に行き機械人形のルチアは膝をついて座り

『…御主人様、私ノコードヲ抜イテ頂ケマセンカ?』

優しいルチアの表情…だけどその全てを信じてはいけない。

『儂はまだお前を信じてはおらん!!』


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その博士の言い分にルチアは首をかしげ

『?……デスガ…御主人様…。私ハ御主人様ノ機械人形デス。信ジナイト言ワレテモ私ニハ…ドウスル事モ出来マセン……私ハ一体ドウスレバ良イノデスカ?』

その言葉に博士は自分が人ではなく機械人形と話しているのだと改めて実感した。

-----そうだ相手は機械……ならば……

『……ルチア…儂の質問に答えられるか?』

『質問ニヨリマス。』

『ふむ。なら御主人の名は?』

『……ラッセル卿………ト……モウ1人…イマスガ…ソノ方ノ名ハ言エマセン。』

-----もう1人……。儂が入力したデータとは別にデータがあるのは確かなようだ……。

『…なぜ言えない?』

『主人ノ命令ダカラデス』

『……儂の命令でもか?』

その言葉にルチアは落ち着きながら

『……私ハ“ルチア”デアリ“ルチア”デハナイノデス。ダカラ…ルチアニ関スル質問ニハ答エマスガ、ソレ以外ノ質問ニ答エル権利ハ貴方ニハナイノデス』

…その答えに博士は考えながら

-----ルチアとしてのデータに対しての質問には答えるがルチア以外のデータに関しては答えない。ルチアのデータは別にあるのだろうか?何のデータかが分かればデータの削除という手もあるが……。

『……そうか。では、ルチア以外のデータであるお前は何なのか答えられるか?』

『……私ハ…機械人形デハナイ…データ。……デハ、ダメデショウカ?』

『…じゃあ、お前はなぜ…ルチアの中に入って来た?』

『……主人ノ命令デ…自分ノ本体カラ逃ゲテ来マシタ。私ハ私自身ノデータヲ守ル為ノ場所ヲ探シ…ソシテ、ココニ来マシタ。』

『なぜ逃げなければならないのか答えられるか?』

『……答エラレマセン』

ルチア以外の質問に答えられないと言いながらも……ある程度の質問には答えてくれている。情報の提供にもレベルがあると言う事か……?。

-----しかし……

博士は目の前にいるルチアの表情に驚いていた。データが違うとこれほどまでに表情のしぐさや言い方が違うのかと改めてデータの重要性を認識させられる。今のルチアは確かに理想に近い……が未知なるデータである事にも変わりはない。

『お前はさっき……私ハ“ルチア”デアリ“ルチア”デハナイ…と言った。ならばルチアのデータと別にあるデータとの区別をつける事は無理だと言う事か?』

『ルチアハ私ノデータノ1部トナリ私ノ膨大ナデータカラ取リ出スノハ、コノ機械人形カラデハ無理デショウ……。シカシ、イツカ私ガ元ノ場所ニ帰ル時ガアレバ……ソノ場所ナラ「ルチア」ノデータダケヲ取リ出ス事モ可能デショウ』

『……いつかは…その機械人形から出て行くと言う事か?』

博士のその言葉にルチアは優しく微笑みながら

『取リ引キヲシマセンカ?博士』



今まで博士の話を聞いていたカイトが口を開く。

「?取り引き……ですか?」

「そう……取り引きだ。それも機械人形と…ね」

「……貴方はその取り引きを-----受けたんですね。」

うなづきながら博士はカイトに

「……機械の弱点とは何か分かるかね?」

「……弱点…ですか。弱点ならたくさんありますが今の話の状況ですと約束を破らない……ですか?」

「いや、それは正確には正しくないな。……機械は決められた事には逆らえないと言う事だよ」

カイトの頭の中で別の人格が言う

“けっ!!嫌な事を言うじじいだぜ-----”

「……そう、だからカイト……君も決められた事には逆らえない。機械とは目的の為に造られたモノなのだから-----」

博士のその言葉にカイトは表情を変えなかった…と博士は思っている事だろう。しかしカイトの頭の中では

-----ここは驚く表情をつくるべきなのだろうか?

人が自然に出す表情……だが機械人形である自分達は学んで得なければならない。そう、それが自分達に決められた事ゆえの行動なのだから-----。

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