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夜更けになり博士も眠りについたのを確認してからカイトはルチアがいる場所へと向かう。とはいっても狭い家の中だから扉を開ければすぐそこにルチアのいる部屋へと入る事となる。真っ暗な部屋の中だが機械人形のカイトには暗闇など関係なくルチアがいる方へと歩いたいく。ルチアと言えば博士に言われた椅子にずっと座った状態のままでいる。先程と違う点と言えば脱いだ服は着ていて眼を閉じていると言う事だけだ。

カイトはルチアの目の前まで来ると左腕の肘よりも少し上の方までしている白い手袋に手をあてて手袋を止めている丸い留め金をはずした。その手袋に隠されていた肘から指先にかけて一目で機械人形と分かるもの…嫌それよりもひどく見えるかもしれない。なぜならその部分は人の皮を剥がした筋肉のように見えるからだ。線のような筋肉のような機械……他の部分は人のように見えるが、その部分だけがあまりにも異色に見え逆に痛々しい。その筋肉のような線の部分がルチア耳の方へといこうとした時である

「……私ニ触ラナイデ」

ルチアの声でカイトの動きがその状態のまま止まる。その時のルチアの眼は開いていたが座っている状態なので顔を上に向けるかたちでカイトを見ている。

「………結構、敏感に反応するんだな」

暗闇ではあるが機械人形であるルチアも又そんな事は関係なく目の前の人物が誰だか分かってはいる。しかし今まで見ていたカイトとは何だか表情や口調が少し違って見える。

「……貴方ハ……カイト……ナノ?」

「カイトだよ。人格は違うけどね。君がさっきまで会っていたカイトは俺のここにいる」

そう言いながら頭をトントンと指でたたく

「2ツノ頭脳……?貴方ハ何者ナノ?機械人形……ナノ?」

左腕の筋肉のような線の部分の機械をルチアに目の前でブラブラと振って見せながら

「…見ての通り君と同じ機械人形だ。君こそ何者なんだ?博士が造ったデータだけではないんだろ?君の中のデータを俺は知りたいんだよ」

「私ノデータヲ……?…何故?」

「……俺達が1つの人格となる為に必要なものかもしれないからだ」

カイトの言葉にルチアは少し考えながらも

「……カイト…私ノデータハ渡セナイハ。」

「別に奪うわけではないぜ。データをコピー(複製)させてくれるだけだでいいんだ」

「……ソレモ出来ナイ………私ノデータハ…トテモ大事デ大切ナモノ……私ハソノデータヲ貴方ニ見セル程……私ハ貴方ヲ信用シテハイナイワ。」

「仕方ないな。じゃあどうしたら俺を信用出来るんだ?」

「……今ノ現状デハ……ナニモナイワ」

「う〜ん。じゃあ、無理矢理にでも……」

“ダメだ!!”

頭の中で別の人格が叫んだかと思うとカイトの人格が変わった。そう今迄の人格に戻った瞬間であった。ルチアはカイトの様子が変わった事に気づき

「カイト……イツモノ…カイト……ナノ?」

「そうだよ。ごめんよルチア……。」

「カイト……」

「でも僕も君のデータを諦めたわけじゃない。君がデータを見せてくれるまで……信用してくれるまで僕は待つよ。」

「………」


それからの僕の生活は博士の手伝いをしながら夜になるとルチアの所へ行っては話をする毎日だった。ルチアのデータの情報も知りたい事もあったが僕の事に対してもルチアにはある程度の事を話すようになっていた。

-----なぜだろうルチアと話すと何かが僕達の中で変化があるのが分かる。

「ネエ、モシ人カラ『貴方ハ人デスカ』ト言ワレタラ、カイトハドウ答エルノ?」

「どう答えると思う?」

機械は嘘はつかないと思われている……だがそうではない。機械はただ『間違い』を知ると修正をする……修正とは間違いを正す事。だが「嘘」が機械にとっての「正しい事」ならば例えそれが「嘘」であっても言う事が出来る事になる……ただ、それだけの事だ。

「多分…人トシテ行動シテイルノナラ『人ダト』答エルヨウニ、プログラムヲサレテイル。……デショウ?カイト」

「“そうだ、だが俺達は”……僕達は「人だ」と言う事も「人ではない」と言う事も状況によって答えが違うようになっているから、はっきりとは言えないけどね。」

「……カイト貴方……」

先ほどのカイトの喋り方が「俺」と「僕」と2つの人格の言葉が同時に発している事に気づきルチアはカイトの様子をうかがうように見ていたが当の本人はそれに気付いていないようで逆にルチアの言葉の方が気になったのか

「?僕がどうかした?ルチア」

「……イエ、何デモナイワ」

ルチアは微笑みながら、それ以上の追求はしなかった。


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そして……ある出来事が起こる。それはカイトが昼御飯を作っている最中に博士が奥の研究室から出て来た時の事。いつもなら御飯が出来て呼ぶまではルチアの作業をしている博士が珍しく呼ばれる前に来ていた。

「……?今日の作業は終わりですか?」

もうじき出来る昼御飯を作りながら博士に質問をするカイト

「いや、今はルチアの作業が出来ない状態なのでな」

「??」

頭の中で別の人格がカイトに命令するような口調で

“おいっ!!ルチアをすぐに見に行け!!”

それと同時にカイトは博士の昼御飯をテーブルに乱暴に置いてすぐに奥へと向かう。ルチアはいつものように椅子に座っている状態なのだが……いつもと違う。いつもなら何かしらの表情やしぐさをするルチアだが…動かない。そうただ動かないのだ。

----------ハングアップか?!!

***ハングアップ=制御不能な状態になる事。

「“ルチア!!”??ルチア!!??」

それと同時に2人の人格が同時に声を発し左腕に手を当ててルチアに近付き金具を外そうとした時、後ろから博士がカイトを制する。

「カイト!!落ち着くんだ。ルチアは大丈夫だ」

「?博士?!!しかしルチアが動いていない!!」

「カイト!!大丈夫だと言っている!!」

今度は大きな声でカイトを制する。機械人形である自分が人間に制されている状況も珍しい事だがカイト自身も自分の行動に驚いていた。

「……すいません、博士。……ですが本当にルチアは大丈夫なのでしょうか?」

「ルチアの頭に耳を当ててごらん。動いている音が聞こえる。」

博士の言う通りに動かないルチアに気づかうようにそっとルチアの頭に耳を当てると……ジジッ…ジジジジジ…と音がしている。動いているのは間違いないようだ。

「ルチアのメモリに対してルチアの莫大なデータの量が多すぎるのだよ。その為ルチアは余分なデータを削除している。見て分かるだろうがルチアは体の作動停止をしなければならない程の……データの容量をだ」

「博士……貴方は何を知っているのですか?」

「カイト……。君には話しておこうと思っていた。さあ昼御飯を食べながら話そう。ルチア……はまだしばらく時間がかかる……しな」

お昼御飯を食べながら単調に話を進めていく博士。カイトは自分の分の昼御飯も目の前に置いてはいたが手は付けておらず、ただ博士の話を聞いていた。

「以前に話した事があると思うがルチアが出来上がった当初には問題がたくさんあった。それは行動に対する動きや言葉の表現がうまくいかなかったと言う事だ。機械人形に必要なもの……それはデータだ……が言葉の知識や行動に対してのある程度のデータを入力したからと言って人間のように動くわけではない。」

「……人として行動するには……それなりの莫大なデータが必要…ですね。」

「そうだ。ルチアにはそれが足りなかった。言葉や知識だけではなく人に対しての行動も足りない。おおまかな人の行動は分かってもプログラムされていない人の独自な行動に関しては不可解になってしまいどのように行動していいのか迷いが生じる。……そこで必要なのが『学習能力』となる」

「しかし『学習能力』とは得たデータではなく経験で得たデータとなる。例えば人がこういう行動をした場合に機械人形が間違った行動をした時は修正をし、正しい行動だった場合はそのまま『経験』というデータとして蓄積していく。……ですね」

「そうだ。ルチアには全くと言っていいほどそれが足りない。……いや足りなかったと言うべきかな。……その頃のラッセル卿は機械人形のルチア自体には満足していても行動や言動には満足はしていなかった。」

「……そこで3PAI(スリーピーアイ)の通販が登場するわけ……ですね」

「そう。しかし通販である程度のデータを手に入れたとしても……今のルチアほどの態度やしぐさはしないだろう」

----------博士の言う通りだ。僕達もまたそれだけの莫大なデータと経験のデータがあるからこそ人としてある程度まで行動が出来ると言える。…がしかし、まだまだ足りないぐらいだと思っているのだから。

博士は続けて話していく

「通販と言っても、たいしたデータはない。君は旅をして町の外世界を知っているなら分かるだろうが召し使いや秘書などの用途にあったデータがあり、それを売っているというだけだ。そして……ラッセル卿が望む機械人形は……きっとそれで良かったと儂は思っていたのだよ」

“いい加減に話しの核心にいってほしいぜ。”

頭の中で別の人格がいかにも面倒くさいと言った言い方をする。確かにカイトも思はなくはないが、だがそれはルチアについて知る必要な話の流れでもあるようにも思えた。それに博士も話す事を優先にしているので食の方はあまり進まず冷めてきた物を口に入れている。それは博士もまた話の核心に早くいきたいと思っているからに他ならないからだ。


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