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「どうだ?坊主、時計の修理は出来たか?」

壁を背に座っているすぐ頭上にピザ屋の大きな窓があり中から大きな図体の男性が店内に響く陽気な声で少年に語りかける

「……あの…僕にはカイトと言う名前があるんですが…」

「ガッハハハ〜そんな事気にするな!!坊主!!」

窓から上半身を出しカイトの頭をがさつになでながら大きな笑い声が響く。図体の大きい男性はそのピザ屋の店長で赤いTシャツにジーンズとその筋肉質のがたいには似合わない白いエプロンと髪の毛がはえていないツルツルな頭には白い料理帽が乗っている。

「……はい、出来ましたよ修理」

自分の名前を呼んでもらうのを諦めた口調で店長に時計を渡し時計を渡された店長は針が動いている時計を満足気に見てから店内にいる客達に時計を見せびらかしながら大きな声で

「すげえぞ!この坊主は!!見てみろよ時計がもう直ちまってるぜ!!」

客達も店主の性格を良く分かっている人たちのようで皆が店長に

「良かったね!!店長」

「ははっは〜!!じゃあお祝いをしなくちゃならないかな?」

などと口々に店長と同じくらい嬉しそうに答えていく。カイトはそんな人達を窓の外から見ながら

----------そんなにたいした修理でもなかったんだけど……

自分がどういう態度をとって良いのか分からないままその場を眺めていると頭の中で別の人格の声が

“けっ!!これだから機械を良く知らない人間は困るぜ。ちょっとした修理でも大騒ぎだからな。呆れるよ!!”

「………」

「坊主!!これが修理代金だ!それとこれは俺の気持ちだ!!」

店長は嬉しそうに代金と出来たてのピザを窓際にいるカイトに渡す

「…あっ、ありがとうございます」

カイトは修理代金をズボンのポケットに入れてから熱々のピザを口に入れる。見た目は人間に見えている為、他の人達には食べているように見えるが実際は機械人形なのだから食べる真似という事になるので食べ物の分析に関しても味の辛いや甘いぐらいなら分かるのだが人間のいう[うまい]が分からないのが正直な所だ。

「坊主!どうだ?この町はいい町だろ?」

店長が窓から外の風景を眺めカイトもピザを食べながら周りの町並みを見る。石畳やレンガで造られた家々と石畳の道を歩く人々。馬車がゆっくりと穏やかに目的地に向かって歩いて行き、たまに自動車が1、2台見かける程度の町並。機械ばかりの国や町もあれば、この町のように観光地と自給自足の生活をしながら生計をたてていく国や町もある。こういった機械が少ない町に来ると機械人形の自分がいるのは場違いなのかもしれないといつも感じてしまうのはきっと気のせいではないだろう。

「…んっ?どうした?坊主。この町の良さに声も出ねか?」

店長は冗談ぽくカイトに語りかけるがカイトは、こういう場合の顔の表情をどうしていいのか分からず今の表情の顔のままでいる事しか出来なかった。

………表情……それは人にとって自然な感情もしくは作りだした感情から出るもの。笑い、悲しみ、怒り、ある程度の感情のパターンは決まっていても人それぞれに似て異なるものがある。どれが正しくてどれが間違っているのか分からない。いや正しいものも間違っているものもないのかもしれない。

----------僕は今この場にあった表情をしているのだろうか?----------

「何を騒いでおるんだ??店長?」

店の外の出入り口から白髪に少し汚れがついているよろけたシャツに茶色のズボンそして医者などが着ているような白衣を身にまとっている老人が声をかけてきた。その老人はどうやら偉い人なのかよほど尊敬をしているのだろう店長は他の者には全く違う丁寧語になり

「やあ!!博士!!お久しぶりです!!見て下さいよ!これ!!」

カイトが修理した時計を嬉しそうに見せ博士と呼ばれている老人は店長からその時計を受け取ると時計が動いている事と時計の周りの状態を確認してから

「ふん、これぐらいなら儂がいつでも直してやるのに……」

少し不満げに店長に時計を返し店長も少し申し訳なさそうにしながらも

「いや〜でも博士のような凄い人に時計を直させるわけにはいきませんよ」

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素直な店長のその言葉に博士と呼ばれている老人は少し苦笑いをしながら何か言いたげな寂しい瞳をしながら小声で

「儂は……凄い人間ではない……」

「またまた!!あのルチア様を見れば誰だって博士がどれだけ凄い人間か分かりますよ!」

その店長の言葉に店内の客達も

「いや〜〜本当にルチア様は可愛らしいお方だよ」

「なんだよ!!お前、見た事あるのかよ!!」

「あるさ!!………遠くからだけどな!でもすげえ良く出来てたぜ?最初見た時は人間かと思ったもんな!!」

客達の言い合いを聞いていた店長も

「分かってねえな!!ルチア様は見た目だけじゃないんだよ!!しぐさ……いや言い方か?すんごいだよ!!あれは会って喋った者しか分からねえ凄さだよ!!」

客達も店長に負けじと

「何言ってんだよ!!店長だって博士の家にピザを配達した時に少し喋っただけだろ??それに今迄ルチア様以外の機械人形を見た事もないくせに!!」

笑いながらまるで子供のように客達と店長は言い合っている

「お前らだってルチア様以外の機械人形を見た事ないだろうが!!」

カイトは窓際で店長達の会話を聞きながら頭の中では別の人格が

“はっはは〜!言ってやれよ!!ここにも機械人形がいるってな!!こんな、ほとんど機械には無縁のような町にある機械人形なんてたかがしれてるがな!!”

----------確かに僕達の事はともかく……こんな町に精巧な機械人形がいるとは到底思えない。今迄機械人形を見た事のない人達ならどんな機械人形を見ても最高傑作と思うのも仕方がない事なのかもしれない----------

「……顔だけは儂の最高傑作なんだが……な」

博士と呼ばれる老人がいつの間にか窓際まで来て外で見ているカイトと一緒に店の中の様子を見ながらぽつりとつぶやく

「……あのルチア……さま…ってどんな機械人形なん……」

カイトが博士に言い終わらないうちに店長がいつの間にか来てカイトの頭をつかみながら

「そうだ!!博士!この坊主を博士の所で雇ってやって下さいませんか?ほら見ての通りこの町は機械の修理をするほど機械があるわけじゃないし……」

急な店長の申し出にカイトも何を言ってよいのか分からず

-----あっ!いや修理がダメなら違う事で働くんだけど…

と頭のなかで言ってはみるものの店長は本人に聞きもせずに話を進めていく

「この町にいる短い間だけでいいんですよ!!考えてみてやってくれませんか?」

博士は店長とカイトを交互に見て少し考えてから

「……いいじゃろう。ちょうど人手がほしかった所だし、ある程度機械の事が分かるなら助けになるかどうかはともかく邪魔にはならんだろう」

博士のその言葉にカイトの頭の中のもう1人の別の人格が不満そうに

“けっ!あんたよりも俺達の方がすぐれているんだぜ!!分かってんのかよ!!”

店長も意外だったのか博士のその言葉を理解するのに数秒動けず、ようやく返事の意味を理解した時には、まるで自分の事のように嬉しそうにカイトの頭を今迄以上にガサツに回しながらいつも以上に大きな声で

「良かったな!!坊主!!お前!運がいいぞ!!博士の所で雇ってもらえるなんてな!」

「……はあ…」

あまりの急な展開と状況にカイトもどう行動して良いか分からず迷ったが、すでに自分の意志とは関係なく話しは決まっている事だけは理解出来た。博士が店長にピザの配達を頼んでいる間にカイトも博士の家に行く為に看板などを片付け始める。

「さて、行こうか?えっと……」

「カイトと言います。博士………博士と呼んでいいですよね?」

「……ああ、構わんよ。カイト」


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