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----------御主人様ヲ憎ンデイルノ?----------

ふとルチアの言葉が頭にこだました。以前ここに来た時にルチアに言われた言葉。そうあれは父親であるラッセル卿の見舞いの帰りにルチアと庭で会った時の事だ。ルチアのその言葉に自分でも不思議なぐらいに正直に

『そう、憎んでいる。どうしようもないほどに……きっとそれは……』

『ソレハ?』

ルチアの言葉にうながされるままに自分の中にあった自分の知らない部分が口を開く

『それは父が母を愛していないから……でも母は父を愛していたから……だ』

ルチアが持っていたハンカチを自分の顔に近付けて来た時に初めて自分の眼から涙がこぼれている事に気づく。だが自分から涙を拭おうとはせず言葉だけが口走る

『……分かってはいるんだ。その感情は都合よく変えられるものではないし変える事も出来ないものだと言う事は……。だけどそれと同じぐらいに僕のこの憎しみに似た感情もどうする事も出来ないものなんだ』

そんな過去を思い出しても……父親であるラッセル卿を見ると改めて自分の憎しみ似た感情の再確認をしてしまう自分がいる。

----------そう、どうしようもないんだこの感情だけは!!



博士の建物の中は薄暗かった。自家発電の為もあるが余分な電力の消費を押さえているといった所だろうか。玄関から入った部屋は1人暮らしの為もあるが、こじんまりしたテーブルと椅子そして小さい台所があり右側の壁には食器棚と本棚が隣同士でならんでいる。左側の壁の方には何も置いてないが鉄の扉がありその壁の向こう側から発電機の音がしている。家の中に入り奥にある小さい台所の隣の扉からさらに奥の部屋へと入っていくとそこにはパソコンやらいろんな設備や機械が殺伐と無秩序に置いてある。研究室と言うには規模は小さいが博士一人でここまで設備を整えたというのならすごい事だ。

「カイトサン、ココハ薄暗イカラ気ヲ付ケテ」

ルチアがカイトの足下にあったネジに気づき声をかけてくれた

「あっ!!ありがとうルチア……さん」

ルチアはカイトに微笑みながら

「『ルチア』デイイデス」

「えっと……じゃあ僕も『カイト』だけで」

「ハイ、カイト」

-----何だかこの機械人形のルチアには戸惑ってしまう。何かが他の機械人形とは違うんだ。そう何かが………

“……ふうん……”

その時、頭の中で別の人格が何かを言った気がしたが特に気にはとめなかった。

博士は椅子にルチアを座らせてから服を脱がせる。顔の造りとは違い上半身は鉄の身体をむき出しなのが少し痛々しい気もする。博士は身体や腕の関節部分を見ながら

「ルチア、身体の調子はどうだ?何か異常を感じるか?」

「身体ニ異常ハ見ツカリマセン博士」

「そうか……右腕の解体を始めるので右腕への機能を停止」

「右腕ヘノ機能停止」

静電気防止の作業服や手袋をして作業を始めようとする博士にカイトは

「は…博士!!ルチアのデータのバックアップを取らなくては!!」

機械人形に取ってデータこそが人格であり全てである。データが破損してしまえば彼女はいなくなる。そう存在しなくなるのだ-----。

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しかし博士はカイトの言う事を無視してルチアの腕をまっすぐのばせるぐらいの高さの長方形の鉄の台を運んできてルチアの右隣に置いてからルチアの右腕をのせる

「……博士!!データを-----」

「カイト……大丈夫ヨ」

ルチアはカイトを安心させるかのように微笑む。

「だけどルチア、記録回路データに何かあったら……。」

黙っていた博士は少し困った顔をしながらため息をひとつつく

「…カイト……ルチアのデータのバックアップはとらん。」

ただそれだけ言うと博士は向こうの奥のテーブルの方に向かいカイトも博士の後につづく。奥には扉や区切りはないが部屋の一室のような空間があり、そこには山積みになっている段ボールの箱がたくさん積んであり、開いている箱もあれば手付かずのまま置いてある箱もある。机の上にはその箱の中身であろう機械人形の腕が何体か解体されて置いてあった。机の周りを見ながらカイトは山積みに置いてある箱に貼ってある配達先の伝票用紙に気づく。発送先は……

「3PAI(スリーピーアイ)……」

カイトの言葉に少し興味があったのか博士はカイトの方を向き

「ほう……知っているのか?」

「機械を扱う人なら知らない人はいないと思います。砂漠の果てにあるという機械都市……優れた技術があるらしいですが砂漠の果てにある事と入国許可が難しいと言う事だけは聞いた事はあります。僕はまだ行った事はありませんが……」

「……入国が難しいだけではない。入国金も高いときている。まあ、わしらのような者では行けん所だ。通販でさえも、どれも高くてラッセル卿の支援がなければここまで買う事は出来んよ」

“……そこまで価値があるという事かな?彼女は----------”

頭の中で別の人格の声が聞こえるが特に気にはしなかった。カイトの関心は3PAIから来た腕にいっていた。

「博士、失礼ですがこの精巧な腕ではルチアの身体には合わないのでは?」

ルチアの内部を見たわけではないが身体を見ただけでも今迄見たどの機械人形よりも造りが劣っていると言っていい。しかし博士1人であそこまで造ったと言うのだから出来栄えはどうであれ凄い事だ。そして博士もその事は分かっているらしく

「ああ、使うのは中身ではなく、その表面の皮の部分だけだ。ルチアの腕の太さや長さが微妙に合わない所はあるが何回か試作品の腕で試しているから大丈夫だろう」

いくら何度か試しているとはいえ、やはり記録回路のデータは機械人形とって重要だ。なぜ博士がバックアップをとろうとしないのかカイトには分からない。
その時カイトはまだ奥にある大きめの箱に気が付く。どうみても腕が入っている箱とは3倍以上の大きさがある。

----------この大きさは……

「……博士あれは……ボディ……ですか?」

「……ああ、腕が成功すればボディもしようと思っておる。カイト、君が儂に何を言いたいのかは分かっておる。だが儂はルチアの事に関して君と討論するつもりはないし君の言う事を聞くきもない。……だが-----」

「………」

「だがルチア記憶回路は……儂の命に代えても傷一つつけさせん。」

その言葉は決意と誓いに近いものに感じられたが博士がいくら言った所でルチアが危険な事には変わりない。しかしカイトの今の立場では博士にそれ以上言う事は出来ないし言う権利もない。そして頭の中でもう1人の別の人格が

“……しないのではなく出来ないのかも……な”

----------?出来ない?…それはどういう意味だ?

“……さあ…なんとなく…そんな気がするだけだ。”

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