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博士は家に着くまでにお店や町の説明をしながら今後の僕がするべき仕事を話していく

「あの店には工具が売っていて、あの角にある店は……全部は覚えられないだろうが儂はこれから来る機械人形の為に仕事に専念しなければならん。だからカイトには今言ったお店などは出来るだけ覚えておいてほしい。そして儂の仕事の邪魔をしない程度に家の中の雑用等をしてほしいんだが……今の説明で何か質問があるなら聞くがどうだ?」

……町の中は最初に来た時に地図を登録しているので間違いはない。さっき博士が説明をしたお店は必要データとして改めて登録もした。

「…大丈夫です。博士が言って頂いたお店は覚えました。仕事に関しても家事全般も出来ますので遠慮なく言って下さい。」

そう言ってニコッと笑顔をするカイトに博士は10件ぐらいはあったお店の名前を覚えたと言い切った少年に驚きつつも

「まあ……覚えていてくれたのならいいが忘れたりした時は町の者に聞けば教えてくれるから心配いらんだろう」

-----子供の言う事だ半分程度に聞いておけばいい。仕事も少しずつ覚えてもらったらいいのだから……。

少年であるカイトにはさほど良い仕事は期待はしていない。ただ機械の修理を仕事としているのだから他の者よりも機械がどれだけ繊細で細かい扱いをしなければならないかは分かっているはずだ。だから儂の仕事の邪魔だけはしないだろう……そうカイトを雇ったのはただそれだけの理由----------。

町から少し離れた所に博士の家はあり他に家は全くない。無造作に生えた雑草の原っぱの場所に博士の家があると言った方が分かりやすいかもしれない。また家というよりも鉄の板で無造作に建てられた一階建ての四角い建物といった感じで広さは他の家よりも少し大きい程度といった所だ。そんな建物の上にある長いアンテナが目立つのは仕方がないのかもしれない。博士が言うには機械の音がうるさいのと町の人達に出来るだけ迷惑をかけないようにと自分でここに建てたそうだ。

「ボロいだろ?」

苦笑いをしながら町の石畳の家々とはまるで異なるこの建物が人々からどう思われているか分かっている口ぶりで言いはなつ。カイトは建物をさわりながら見回して行き

「……見た目ではないですよ。どれだけ自分の仕事がやりやすいかだと思います。あれ?この建物は増築しているんですか?ここから板の色が少し違うし中からするこの音は……自家発電……?」

カイトに予想外な言葉を言われた事と思っていた以上に機械に詳しいかもしれない事に少し驚きながらも

「そうだ。自家発電じゃ。ルチアには外部からの電流や干渉が一切ない独立した状態にする事が条件だからな。」

「……ルチア…さっきお店で言っていた博士が造った機械人形の事ですね。……しかし、そこまでするほど凄い機械人形なんですか?」

外部からの干渉を一切断ち切るほどの機械人形とは一体……。その時、町の方から黒い高級車が1台こちらに向かって走って来る。博士はその高級車が来るのを待ちながらカイトに

「もし……君が少しでも機械の事に詳しいならルチアがどれだけ価値があるか分かるかもしれんな。そう……機械人形にとって価値のあるもの……」

博士の言葉を聞きながらカイトは

----------価値…僕たち機械人形が人から見た価値のあるものとは……?

博士の前に黒い高級車が停まり後ろのドアから執事ローウエルが降りて来る。そしてその後から機械人形の少女ルチアが続いて降りて来た。機械人形の少女ルチアは目の前にいる初めて見る少年に微笑みながら自分の名前を告げる

「コンニチハ、私ハ『ルチア』。貴方ハ?」

「!!こんにちは…僕は『カイト』」

そう言いながらルチアと握手をした時、頭の中でもう1人の人格の声が響く

“……なんだ!やっぱりたいした事ないじゃないか!しかも警戒システムはないのか?まずず最初にあった人物には危険人物かどうかの情報収集が先だろ?マスターを守る機能はないのか?この機械人形は……?”

-----確かに言う事は分かる。顔も確かに良くは出来てはいる。しかしそれだけだ。さっき握手をした手はゴツゴツとした鉄の感触があったし良く出来た顔も細かい表現は無理そうだ。しかし、何だ?この違和感は………?

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カイトがルチアの分析をしている間にルチアは博士のあいさつも終えて老執事のローウエルのそばに戻る。老執事は初めて見る少年カイトを怪訝そうに見ながら博士に

「あの少年は?博士」

「ああ、カイトと言う。儂はこれからルチアにかかりっきりで仕事をしないといけないんでな。主に家の雑用等をしてもらう事となる」

博士がそう説明をし終えると同時にカイトも老執事に頭を下げ挨拶をする。老執事はカイトを少しだけ見てから視線をまた博士の方に向け

「……そうですか。博士が選んだ少年なので大丈夫とは思いますがルチアはだんな様にとって大事な機械人形です。くれぐれも気を付けて下さい」

「分かっとる。安心しろ。……それよりもラッセル卿は来ていないようだが容態は……悪いのか?」

「容態は良くもなく悪くもないと言った所です。今回はルチアが心配をしたので私が任されました。……それに今日は御子息のケント様が来られますので」

「……そうか。血の繋がった親子なんだから出来る事なら分かりあってほしいものだ」

「………」

博士の言葉に答える事はなく老執事ローウエルはルチアに

「私はだんな様の元に戻ります。ルチア、博士の言う事を良く聞いて新しい腕と手を付けてもらいなさい」

「ハイ、分カリマシタ。御主人様ヲ宜シクオ願イシマス。」

そう言いながら深々とおじぎをするルチア

「分かっているよ。では博士よろしくお願いします」

博士もその言葉にうなずき老執事ローウエルは高級車に乗って来た道をまた戻って行く。




その頃、ラッセル卿がいる別荘では息子のケントが訪れていた。

「はい、お見舞いの花束」

寝室の扉に控えていた召し使いの女性に花束を渡すとベットで上半身起きた状態でいるラッセル卿を冷めた目で見る。

「よく来たな、ケント」

父であるラッセル卿の言葉には答えず部屋の周りを見回しながら部屋の中央にあるテーブル近くのソファに腰をおろす。何かを探すようなケントのしぐさにラッセル卿は

「……ルチアならおらんぞ」

その言葉にケントは少し動揺はしたが、すぐにいつもの態度に戻る

「……あっ、そう」

冷めた目で自分を見る息子。母親ゆずりの青い瞳にウエーブがかった肩まである金髪の髪。深緑色の高級スーツを着ている体格と整った顔だちは昔の自分を思い出す。

「……22歳だなお前も。お見合いの話しがあるそうだが話しは進んでいるのか?」

そんな父親の言葉に苦笑いをしながら

「捨てた息子の将来を心配してくれているのかい?それとも家の心配かな?大丈夫だよ。今は貴方が病気なのを口実にそういったお見合いの話しは全て断らせて頂いているよ。それに僕は貴方のような恋愛感情のない結婚をするつもりはないからね!!」

息子であるケントの言う言葉が本当の事だけに何も言い返す事は出来ないし言われて当然の事だと思う。ただそんな憎しみも似た感情だけが表立っている息子が不憫でならない。どうしたらお前をその憎しみから解放して幸せにしてやれる事が出来るのだろうか?

「………」

ケントは何も言い返して来ない父親の顔を見る。病気のせいか前よりもやつれているのが見た目でも分かる。しかしこの男に対する憎しみ……いや呪いにも似た感情がそんな事で押さえられる事はなく、いつの日か…そう…遠くない未来にこの世からこの男がいなくなる時、果たしてこの感情は綺麗に消えてなくなってくれているのだろうか?。


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