『シャドウハーツ2〜もう1つの終わりと始まり〜後編』

古城が燃えている。古城を燃やすその炎の勢いは建物の中にある全ての物を灰にするまで終わらない。その燃えさかる炎の中、大きい広間の中心に立つ1人の男。いや…違う。それは人の形をした人ではない異形の者と言ったほうが正しい。なぜなら肩より長いその髪の毛は獣のような堅さを思わせ髪の色は血のように赤く、顔だちは人なのだが眼は金眼で歯は牙のため口からはみ出し、手は黒ずんだ色をしている。その人ではない者の足下に転がる者がある……それはもう人なのか魔物なのかも分からないほどに原形を留めておらず肉の塊と化している。その塊の周りには血が大量にあふれ息吹きひとつ聞こえない。どうやら今立ってい異形の者が倒したのであろうモノ。そして燃えさかる炎の中で聞こえる声。その声は遠く遠く城の外から少女が叫ぶ声。

「…帰っ…き……て……〜!」

異形の者はその声が自分を呼ぶ声である事を知っている。なぜならオレはあの少女を守る為に戦っていたのだから----------。

-----大丈夫、大丈夫だ。今すぐ行くから……もう叫ばなくていい。泣かなくていい。

最後に別れた少女の顔を思いだしながら心の中で少女に語りかける。燃えさかる炎の中、少女の声のする方向へ行こうとした瞬間-----強大な力を持つ気が突如、自分の頭上の上に現れた。異形の上、そう宙に浮いている老紳士風の男。異形の者は視線を外す事が出来ずにただ上を見上げて立ち尽くす。黒いスーツを着た老紳士風の男は黒いシルクハットを取り軽く挨拶をしてから異形の者に向かって

「本当は私が倒す予定だったのですが……。よくぞ、あの裏切り者を倒してくれました。」

異形の者の足下にある肉の塊の事を言っているのだろう。しかしなぜ現れたのかが分からない。炎の勢いも老紳士風の男には意味がなく炎を寄せつけるどころか操っているようにさえ見える。その強大な気に不安を覚えつつも異形の男は口にはえている牙に邪魔されて上手く言葉に出来ない声を老紳士に向ける

「グググガ…オ……敵……か…?」

老紳士は少しおどけた感じに返事をする

「……そうですね。私もあの少女の力が必要なのでね。まあ今すぐと言うわけではありませんが……横取りや邪魔だけは勘弁して頂きたいところ-----」

異形の男の足下にある肉の塊を見つつ老紳士が言葉を続ける

「だから……今後私の邪魔になりそうな者は早めに排除させて頂こうと思っているのですよ!!」

老紳士はそう言うなり巨大な気と共に殺気を炎の勢いに混ざるかのごとく異形の男に放つ。異形の男は放たれた殺気に心が体が恐怖で凍り付きそうな所を叫ぶ事で免れる。

「ガああアアッッッッッッ!!!!」

宙に浮く老紳士に向かって拳を叩く……が見えない壁に当たって逆に自分がその衝撃で床に叩きつけられる。炎が全身にふりかかるが異形の者であるが故に皮膚が少々黒くなる程度で済んでいる。そして、その姿を不敵な笑みで見届けている老紳士。

「??!!」

老紳士の額から一筋の汗が流れ、その汗を手でぬぐう。それは炎の暑さではなく長い年月を魔術師と生きてきた本能が察知している危険信号。それを侮るのは愚かである事を自分は知っている。そう侮りは過ちを生み愚かさは自分の命を危険にさらす。自分の足下にも及ばない者に見えても全力で尽くさなければいつかその過ちが自分の身に返る事を知っている。

「グルルうウう……」

声にならない声を発しながら異形の者が叩き付けられた身体を起こそうとしていた時であった。宙に浮いている老紳士いや魔術師が呪文を唱え初める。異形の者はその唱える隙を見のがすはずもなくチャンスとばかりに再び魔術師めがけて飛んで攻撃をしようとした瞬間、魔術師が叫ぶ

「いでよ!!破壊の神アモン!!」

魔術師の背後から出て来た一瞬の影……そう、すべては一瞬の出来事。自分の身に何が起きたのかも分からないほどの一瞬。気づけば床に背を向けて倒れている自分の身体。起き上がりたくても身体が動かない。瞼が重く眼を開ける事も出来ない。それどころか腕も足も手も身体の全てが-----重い。

-----??なに?…いったい何がオレの身に起きたんだ?

分からない。分からない。なぜあの一瞬でこれほどにまでに血が流れるのだろうか?。なぜこれほどまでに身体が引き裂かれているのだろうか?。魔術師が何かを言っているのだが良く聞こえない。オレの耳に聞こえるのは、ただ1人の声のみ。

「帰って来て!!帰って来て!!…お願い!!帰って来て〜!!」

…不思議だ。今の状態の方が少女の声が良く聞こえる。あの少女はオレにとって一体なんだったのだろう。愛しくて切なくて悲しくて………全ての感情があの少女だけに向いていて……離れたくても離れられなくって……。ああ……守りたかった。でも……もう守れない。呼んでいるのに側に行けない……。すまないオレは……オレは死ぬ。死…それは不確かなように思えるが確かなもの。もう間近に迫って来ているもの。間近に迫るその時になぜか脳裏に占い師の老婆の言葉が蘇る

----- お前は近い将来、守るべき者の為に命を落とすだろう。
----- …今は分からなくてもよい。未来を変えるのも、その道を行くのも己自身。それだけは忘れず行くがよい。

??未来を変える…?どういう意味だ?。だが……心の中で何かが納得している。何かを決心している。まあ、いい。今はいい。……ただ今は……想いを……思いを…魂を-----少女の元へ行くように……ただ願う。死さえも超えて行く事を……ただ願う。静かに…そう身体のすべてが機能停止するその一瞬までも-----。

上に行く

魔術師は見下ろしている。床に転がる異形の者の骸の姿を。

「……さすがに人でない異形の者だけあって、すぐには死にませんでしたね」

誰に言うでもなくただ言葉を吐く。しかし死を確認しているのに何故か落ち着かない。異形の者の骸から何か良くないモノを感じる。いや、うごめいている。それは膨れ上がり広がり----大きくなり----- 一瞬、何かが出てきたかと思った瞬間……その「何か」は魔術師の目の前で幻のごとくかき消えた。

「??何だ……今のは?」

魔術師は先ほどの「何か」を確かめる為に異形の者の骸をもう一度見る。だが、うごめく気配はもう感じない。

魔術師は知らない。その「何か」はいつか自分の未来に立ちはだかるモノだと言う事を。
魔術師は知る事はない。いつか自分の信念に対して戦いを挑む者の姿だと言う事を。
そして誰が知るだろう。人の魂も魔物の魂も全ては正しい時の流れに帰って行ったという事を-----。

しばらく様子を見ていたが骸とかした異形の者は動く事はなく魔術師はため息をついて首を横に少し振る。そして遠くで異形の者を呼ぶ少女の声を聞く。その声を聞きながら誰に言うでもなくつぶやく魔術師。

「今はまだその時ではないのでね。いつか…そう、その時が来れば迎えに来ますよ。……アリス…アリス・エリオット」

その言葉は少女には届かない声。だが魔術師は気にしない。シルクハットを軽くかぶり直すと炎に崩れゆく古城と共に姿を消した。


-----少女は叫ぶ。「帰って来て!!お願い!帰って来て!」と。本当は彼の名を呼びたい叫びたい。だけど彼には名前がない。呼ぶ名前がない。出会った頃に異形と化してしまった人。言葉を忘れ名前も忘れ記憶も忘れた人。父様は名前を付けたらどうだい?と言ったけれど私は彼の本当の名前が分かった時、困るからと名前を付けなかった。それに名前がなくても彼は私の側にいてくれて守ってくれて-----こんな風に離れるとは思わなかった。別れるとは思わなかった。涙が止まらない。彼の元に行きたくても父様がそれを許してはくれず自分の力のなさを思い知る。だから叫ぶ。戻って来てくれる事を信じて。私を置いて行くはずがないと信じて-----。だがその少女の思いも叫びも炎で崩れさる古城の音にかき消され…ただ……かき消されて…少女の叫びは絶叫となり……その絶叫もまた、かき消されていく。



----------あれから、どれだけの年月が流れたのだろう。----------

夜の闇に月が儚く輝く。その儚く輝く中を走る列車。その列車の最前列の車両の座席に1人女性が座っている。列車の窓に映る自分の姿を見る。あの時の少女の面影はあるものの、もう子供ではない。少女ではない自分がいる。炎の渦と共に崩れ行く古城……古城が灰になっても火が消えても……彼はもう2度と私の前に現れる事はなかった。今頃になって彼を思いだしたのは、きっと父が死んだから。私を庇って死んだから-----。

私は自分の中にある力の価値なんて知らないし分からない。なのに、そんな分かりもしない力の為に彼も父も死んだ。なぜ私だけが生きて彼や父が死ななくてはいけないのか?。私は何の為に生きるのか?そう自分に自問自答する度に占い師の言葉が私にささやきかける。

-----己の力に嘆く事はないよ。その力があるからこそ出会える出会いがある事を覚えておくがいい。愛しい我が血族の娘よ-----

力があるからこその出会い……そんな出会いが本当にあるのだろうか?。現に今の私は軍に拉致され列車で護送されている状態。そう、ただ周りに翻弄されているだけの身なのに-----。

だが、彼女は知る事となる。これから出会い自分を守ってくれる男こそが、その言葉の意味を持つ者である事を。自分が生きる全ての想いを心を捧げる人だと言う事を。しかし彼女は永遠に知る事はない。その男こそ過去に自分を助けてくれた異形の者の変わり果てた姿だと言う事を。

男は駅のホームで列車を待つ。夜の闇には月が儚く儚く輝いている。その光の中で列車の汽笛が鳴り響く。男は知っている。自分がこれからすべき事を。列車に乗っているはずの女を救出し守らなければならない事を。だけどこれは自分の意志ではない。頭に激痛が走るほどの痛みを伴う声が俺に命令しているからだ。ただ、それだけだ。面倒だ。腹が立つ。しかし行動しなければこの激痛を伴う痛みからは解放されない。いや、いつか解放される時が来るのだろうか?そう思っているうちにも列車は近付いてくる。今はやめよう。今は……今はただ列車に乗り女を助ける事だけを考えよう。

だが、男もまた知る事となる。自分の意志で自分の想いで自分の決意で戦うべき場所がある事を。そして守りたい人がいると言う事を。だがそれはもう少し先の未来……。今の男の心にある決意はそれよりも奥深く…誰にも犯す事が出来ない領域。それは激痛に伴う痛みの声にも犯されない領域。そう、それはいつの頃からか分からない。最初は儚い声で、だが確実でその声は強く強くこだまして俺に言う。

-----未来を変えろ!未来は決まっていない!!未来は-----全ては自分自身で切り開き変えて行くのだ!!と-----。

あたり前だ。俺は俺に言う。決意する。誰にも邪魔はさせない!!誰にも-----。それは新しい未来への道。誰も知らない未来への道。未来は過去へは行かず未来はただ未来へと行く道。そう、これから出会う愛しい人に会っても変わらない決意。ただ未来へ。ただ未来へ。と-----自分の為に。愛しい人の為に。

一つの話が終わり…そして-----始まる。全ては未来へと行く道。

後編END

今の中編を後編で終わらせていたのは、この後編を長い話で考えていたからなんですが……どうにか上手くまとまったと思っています。シャドウハーツの1と2をプレイしていない人には分かりにくいですが長篇を書くのは無理なので私的にこれで良し!!としています。