『シャドウハーツ2〜もう1つの終わりと始まり〜中編』

ある町の中にある立派な屋敷の中の一室にエリオット神父はいた。その部屋は暗く黒いカーテンに黒い壁そして中央には黒色の丸いテーブルがあり、そのテーブルの上には、その黒さが目立つような白いテーブルクロスがかけてある。テーブルクロスの上に大きな水晶玉があり、それを見ている占い師がいる。見た目は85歳ぐらいの老婆がその水晶玉を見つめながら自分の向い側に座っているエリオット神父に話し掛ける。

「良く来たね。エリオット……。ふむ、どうやら盗まれた3冊の秘術書はまだ見つかっていないようだね」

その話の口調からして占い師は神父の事情を知っているようだ。神父はうなずきながらも来た理由を話す。

「……それはいいのだよ。それよりも心配なのは娘のアリスの事だ。やはり私と一緒に旅をしなくてはいけないのだろうか?」

「……エリオット、お前にだって分かっているはずだ。あの娘には普通の人にはない能力がある。その能力ゆえに人として普通の生活を送る事は出来ない。いや、したくても出来ないのだよ。ほら、水晶にも写っているよ。娘を狙う邪悪な黒い影が………!!。ほう、これは……これは……エリオット……最近、変わった男を拾っただろ?」

「!!分かるのか?」

「ああ、いい拾い者をしたね。その男は黒い影から娘を守ってくれるだろうよ」

エリオット神父はその言葉に自分が持っている疑問が押さえきれず

「あの男が??あの男は一体何者なんだ?」

「……さあ、何者だろう……禍々しい魔性の力を感じるが。水晶で見えるのは娘を守る姿だけさ。」

「………」

うなだれて黙っているエリオット神父に占い師は少しため息をつきながら

「……分かったよエリオット。その男をここに連れておいで私が見てやろう。外で娘と一緒にいるのだろう?」

「……すまない助かるよ。」

エリオット神父はそ申し訳なさそうに礼を言いながら部屋を出ていく。



そしてエリオット神父に連れられて娘アリスと一緒に入ってきた男。男は帽子を深くかぶっており長そでのコートに黒いズボンに手には黒い手袋をはめている風体は若い男のような感じはするのだが実際は分からない。アリスは見た目は8歳前後ぐらいで肩まである銀色の髪を左右の横髪だけを後ろにやり青いリボンで結び青色の落ち着いたワンピースを着ていた。今もアリスは男の手を繋いで離れる様子はない。

「ふむ……。これはまた珍しいね。魔性の者と融合の術(フュージョン)によって、その魔の力を自分の力とする者……。その帽子とコート…そして手袋を脱いで見せてごらん」

占い師はそう言いながら男を指差す。エリオット神父は娘のアリスに

「…アリス、彼にコートと帽子と手袋を取るように言いなさい。」

「……コートと帽子と手袋を……取ってくれる?」

アリスの言葉を聞き、男はコート帽子を取る。取ったその姿は人の形をした人ではない者と言ったほうが正しい。なぜなら肩より長いその髪の毛は獣のような堅さを思わせ髪の色は血のように赤く、顔だちは人なのだが眼は金眼で歯は牙のため口からはみ出し、手は黒ずんだ色をしている。

「……すいません。彼はアリスの言葉しか聞かないのですよ。」

エリオット神父は状況を説明し占い師はうなずいて男の姿を見る

「………残念だがこの男が元の姿に戻る事はないだろう。今のこの男には自分の中にある魔性の者達の力を押さえ制する程の精神(こころ)がなく、何かしらの力強い信念だけが今の姿で留めておく事が出来ているようだ」

それから少しの沈黙が続き占い師はじっと何かを見つけたように男を見ながら

「…………いや、それだけじゃないね。凄まじく恐ろしい力を持つ魔物…いや凶神か?…何かは分からないが……恐ろしい魔物がいる。だがこれは1人の強い魂がその魔物を封じ今の男を支えている。……」

占い師は少し疲れたようにため息をつきながらエリオット神父に

「大丈夫。この男がこれ以上、魔性の者達に支配される事はない。安心して娘を任せるがいいよ。」

「……しかし私には分からない。彼はなぜ私達の前に現れ……なぜアリスを守ってくれるのだろうか……?。」

「……人の縁(えにし)とは己が知らない所にもあるのだよ。……アリス…ここにおいで」

上に行く

占い師の老婆の言葉にアリスは父親のエリオット神父を見ながらもオドオドと近付いていく。占い師の老婆はアリスの頭をなでた後、自分がしている小さい水晶のネックレスを外して、それをアリスの首にかける

「己の力に嘆く事はないよ。その力があるからこそ出会える出会いがある事を覚えておくがいい。愛しい我が血族の娘よ」

その占い師の言葉にアリスはキョトンとなりながら不思議そうに

「……?私…悲しくないわ?お父様も彼もいるもの」

アリスの言葉に占い師は悲しそうな嬉しそうな複雑な顔をしながらもアリスの頭をなで

「……そうだね。それは良い事だ。でもこの私の言葉も忘れないでおくれね、愛しい娘よ。……さて、アリスすまないが、あの男をここに呼んでくれないかね?」

あの男……その姿はどう見ても人には見えず髪は長くしかも血の色のように赤くなり顔だちは人なのだが眼は金眼で歯は牙のままに手は黒ずんだ色をしている男。アリスは彼を呼び占い師の老婆は再度アリスの頭をなでながら

「ありがとう、アリス。済まないが彼と2人だけで話をさせておくれ」

アリスは少しとまどいながらも

「……でも彼……最近言葉を教えたばかりだから……あまりお話は出来ないの。それに牙が邪魔をしてうまくしゃべれなくって……」

彼を気づかうアリスに占い師の老婆は優しくさとすように

「ありがとう、大丈夫だよ。私が彼に伝えたい事があるだけだから……そんなに話す事はないからね。心配せずにエリオットの所におゆきアリス」

アリスがエリオットの所に行くのを確認してから彼の方を見ると、彼はその場にいながらも眼はアリスの方へと向いている。

「よくお聞き、魔性を持つ者よ。……これは無数にある未来の内の最も可能性がある事だ。お前は近い将来、守るべき者の為に命を落とすだろう。」

占い師の言葉が分かるのか眼がアリスから占い師へといき

「……?ガ…マモ…ル…?」

「…今は分からなくてもよい。未来を変えるのも、その道を行くのも己自身。それだけは忘れず行くがよい。」

「……ワス……レナイ……」

男は分かっているのか分からないのか、それだけ言うとアリスの元へと戻っていく。占い師は少し困った顔をしつつも

「エリオット、次はお前だよ」

エリオット神父は不可解な顔をしながら占い師の方へといき

「??どうしたのだ?今日は何かいつもと違う。何かあったのか?」

その言葉に占い師は少し考えながら決意のある声で

「……お前にだけは言っておこうかね。私はある魔術師にこの力と命を捧げるのだよ。」

「魔術師に?!!なぜ…??」

「……少しでも長く我が血族達の命を守る為に。しかし…その為に悪しき破壊の神アモンが蘇る事だろう。…エリオットよ。秘術書を追うなとは言わぬ。だが魔術師には近付くな。これが私がお前に言ってやれる最後の言葉。覚えておいで」

占い師のその言葉に賛同出来ないと言わんばかりに

「……そんな恐ろしい事……どうか止めて下さい。我が血族の為にするべき事じゃない。」

涙ながらに訴えるその言葉に占い師は少し笑みを浮かべながら

「……倒す事も出来ない……逃げる事も出来ない。なら……我が血族達の為に。」

続けて占い師は力強く…そしてさとすようにエリオット神父に

「さあ、お行き。エリオット。お前の行く道に幸があらん事を!」

「……あなたの行く道にも幸がある事を祈ります」

エリオット神父は祈るような言葉を言いながらおじぎをするとアリス達を連れて部屋を出て行く。エリオット神父達が出て行った部屋で占い師の老婆は1人じっと水晶を見つめていた。……それからどれくらいの時間が経ったのか1人の男の声が部屋中に響く

「……さあ、約束通り迎えに来ましたよ。」

占い師の老婆は姿の見えない言葉にうなずきながら

---------私の命と力によって、この男は破壊の神アモンを手に入れ多くの人々の血が流れるだろう……。されど、多くの命を犠牲にしても守る者がある。我が血族よ。呪われし道を行く者達よ。短い時の我の守りの中で未来を切り開いて行く道を探すが良い。

……ある者は終わりを告げ、ある者にとっては始まりとなる。だが選ぶのは全て己のみ。例えそれが知らずに選んだ道であったとしても----------。

中編END