『シャドウハーツ2〜もう1つの終わりと始まり〜前編』
飛鳥の地、石舞台の上空にある銅鐸での最後の戦いが終わった。時空を歪め現在を過去へと戻そうとした加藤の野望の阻止はしたものの銅鐸は時空の歪みで崩れはじめている。俺と仲間達はもう現在の場所に戻る事が出来ない状況だ。そんな状況下で唯一の希望は死に行く加藤が残した言葉
----- 自分の望む場所を強く願うのです。-----
時空の歪みにほうり出される俺達は自分達が望む場所を強く願いそこに辿り着く事を信じるだけ。例えそれが現在なのか過去なのかも分からない場所であろうとも-----。次々と仲間達は時空の中へと消えて行く。そう……自分達が望む場所に辿り着く事を信じて。
仲間達を見送り俺は1人崩れ行く地に立ち尽くす。俺の心の中に刺さっているヤドリギの呪いが今、成就しようとしているのだ。その呪いは人格や記憶の全て……そう俺が俺である今までの過去を,全てを奪っていくもの……。俺が俺ではない……記憶や今迄の人格を形成してきた過去がないと言う事、それはまるで産まれたての赤ん坊と同じ……俺と言う魂がないのに等しい……。記憶がなくなっていく……今迄の過去の人生がまるで何もなかったかのように真っ白に真っ白になっていく……。
……俺は……俺は…誰なんだ?……?……なぜ……ここ…に……いる?
記憶を失う中で時空をただよっていく身体………この身体はどこへ行くのだろうか?何も覚えていない記憶の中で無意識に口が言葉をつぶやいた。
「……ア……リ……………ス」
……その言葉と同時に時空の歪みの中にいた身体が消えた………。
----------それから14年前の過去へとさかのぼる----------
森の中の花畑で父親と一緒に花を摘む少女。見た目は8歳前後ぐらいで肩まである銀色の髪を左右の横髪だけを後ろにやり青いリボンで結びフリルのついたかわいいワンピースが良く似合っている。
「お父さま。お母さまのお墓のお花はこれぐらいでいいかしら?」
両手いっぱいに摘んだ花を父親に見せる。父親は神父らしく首に十字架を手には聖書を持っていた。
「ああ、それで良いだろう」
と言ったその時、少女の後ろでドサッと何かの人影が落ちて来た。少女はその音だけで恐くなり後ろを見ないまま父親の元へと抱きついた。神父である父親は左手で娘を守るように抱きしめ片方の手で十字架を握りしめて人影の正体を確かめる為に視線をむける。人影はうつ伏せに倒れ込んでいた為、顔は見えないが、風体からして若者のようで茶色の短かめの髪に黒のジャケットにズボンを着ているのだけは分かった。しかし花畑の上空には何もなく若者がどこから来たのかは全く分からない。
「グ……ウッ……」
急に若者が苦しそうに身体の傷みを押さえるかのように身体をまるめながら、もがきはじめ神父は危険を感じながらも娘をかばいつつ
「おいっ!!君!大丈夫か?」
若者に声をかけるが返事はなく…ただ言葉にならない声だけが響く。だが若者にも自分の身になにが起きているのか全く分からなかった。身体の内から禍々しいものが襲って来て髪の色は赤く染まりながら肩まで伸び始め歯は牙と化し腕は黒ずんだ色に変色して行く。どうしてよいかも分からないまま、もがき苦しみながら異形の者へと変わって行く自分の身体。
「……お父様……あの人どうしちゃったの??…」
「……この禍々しい気は-----」
神父でもあり白魔法も使えるので今までさまざまな邪悪なものを祓って来た自分だったが……この若者から出て来る魔性たちの気の凄さはどうだろう。こんな凄い気は初めてだ。
「グッッ!!!ガッッッッッ!!!!!」
少女にはその若者の声にならない声が恐怖でもあったが、それよりも辛く苦し気な傷みが伝わって来て…それが悲しくて
「お父様!!あの人を助けてあげて!!」
泣きながら父親に助けを求める。そんな娘の頭をなでながら
「アリス。私から離れていなさい」
そっと娘の身体を遠くへと導くように押すと娘は父親の姿がギリギリで見える範囲まで離れていく。
----------アリス----------
どこからか聞こえた言葉。記憶も言葉も失い、この言葉の意味も分からない。だがなぜか若者の胸に暖かく力強いものが蘇ってくる。
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