『呪いへの決意(シャドウハーツ2編)』

ヤドリギ……今の俺の心の中に刺さっている呪い。その呪いは人格や記憶の全て……そう俺が俺である今までの過去全てを奪っていくもの……。
俺が俺ではない……記憶や今迄の人格を形成してきた過去がないと言う事はそれはまるで産まれたての赤ん坊と同じ……俺と言う魂がないのに等しい……。
『呪い』……そう愛しい人を奪ったのも『呪い』。……そう俺は分かっていた!分かっていたのに俺は何も出来なかった……!!。『呪い』を解く為に俺は何度も俺の精神世界にあるグレイブヤードに行き呪いの原因である「四仮面ども」の所へ乗り込んだ。ある時は脅し、ある時は懇願し呪いを解く方法を聞いた。だが「四仮面ども」はただあざけ笑うだけで何も教えてくれず、その度に何度殺してやろうと思った事だろう。そう……「四仮面ども」を殺して呪いが解けるなら俺は何度でもやってのける。しかし呪いを解く方法が分からないのに「四仮面ども」を殺すのは彼女を殺すのと等しい行為になる。俺にはどうする事も出来ない。見えないモノが彼女を蝕(むしば)んでいくのが分かっているのに……!!。

……敵がいる浮遊城ネアメートの内部に乗り込んだ時も苦しそうな彼女を見て俺は仲間に彼女と2人きりにしてくれと頼む。しかし2人きりになっても彼女の苦しさをやわらげる事も呪いを解く事も出来ない自分が腹ただしく、自分の無力さが情けなかった。そんな俺にアリスはやさしく

「ごめんなさい。私はもう大丈夫だから」

……涙が出そうになった。一番苦しい彼女は泣きもせずにいるのに何も出来ない俺が涙を流す事など出来るわけがない。俺はそんな彼女を黙ってただ抱き締め

……俺はどうしたらいい?どうしたら彼女を救える?誰か教えてくれっ!!このまま俺と彼女が入れ替われるなら替わってくれ!!

何度も何度も心の中で叫び、その願いが届くように強く強く願う。

「ウル…」

そんな俺の顔に彼女は自分の手をそっと当て

「……ウル…心配しないで。私は大丈夫…大丈夫だから…。」

「アリス…俺は-----」

『呪い』の事を彼女に言おうとしたが口からその言葉が出てこない……。彼女も俺もお互いに『呪い』について言った事はない……いや言えなかったと言うべきかもしれない。

「……俺は……俺は…恐いんだ。大事なモノが俺の中から消えていってしまいそうで……」

俺はそれだけしか言えず、そんな俺にアリスは優しく

「……ウルは…何も失わないわ。大丈夫、私が保証する……」

「……本当に?」

「ええ、本当よ。私が言った事……信じられない?」

「ううん、信じる。信じるよ、アリス」

アリスが言うと全てが大丈夫だと信じてしまいそうになる。俺はアリスを強く抱き締めながら想いを込めて

「……アリス…この戦いが終わっても……俺と……俺とずっと一緒にいてくれ…」

「……ウル……。……ええ……一緒にいるわ……」



……だが、それから数日後に彼女は俺を置いて逝ってしまった。

-----何も失わないわ

その言葉をうのみにしたわけではない。ただ彼女の言葉だからこそ俺は…俺は信じたかった。きっと彼女を救えると----------。彼女の死後、四仮面どもやアートマンを倒しても俺の心の悲しみや憎しみは少しも救われはしなかった。きっとこれからも俺の心は救われない事だろう。そして今の俺にふりかかっているヤドリギの呪い…呪いが俺の記憶を全て奪った時…俺が俺でなくなった時…俺の中にいる化け物どもが俺の身体を乗っ取り地上を死の世界にしようとする前に……俺は-----。そうこれは俺の覚悟だ。諦めたわけでもないし希望を捨てたわけでもない。

「……アリス」

この名前を言える限り俺は俺でいられる。呪いが解けるのが先か解けないのが先か………それは誰にも分からない。だが俺はその前に全てに決着(ケリ)をつけなければならない。そう、この戦いの全てに-----!!。

END

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『ウルと蔵人(シャドウハーツ2編)』

日本にある犬神の里の滝の前で1人ため息をつく少年。きれいな短かめの茶色の髪に紅い瞳……見た目は優男だが剣も武道もそれなりのもので日本男児にふさわしい袴(はかま)姿が良く似合っている。
「どうしたんだ?蔵人」
蔵人……どうやらそれがその少年の名前のようだ。大人びたガラの悪い男がそう言いながら蔵人の所迄行き一緒に目の前にある滝を見ながら
「…もしかして…さ、女の悩みか?ガキのくせに……なっ!そうだろ?蔵人」
「違いますよ。ウルさん」
ウル……それがガタイが良く少々手入れがされていない茶色の髪に自分と同じ紅い瞳を持つガラの悪い男の名前。
「ふう〜ん違うんだ。俺はてっきりロシアを狙う計画でも考えているかと……」
そんなウルの言葉にガックリとする蔵人
「……何だか……こんな事で悩んでいる僕の方が情けなくなって来ました……」
「だから何を悩んでいるんだよ?」
ウルに催促され蔵人は真剣な面持ちになり滝を見ながら
「……僕は…僕のような人間がこんな大規模な戦いに参加しても良いのかと…ずっと考えていました。」
「……??戦いに大規模も小規模もないだろ?お前はお前の守りたい者の為に戦うんじゃないのか?」
「ウルさん!!この戦いは日本が…世界が…どうなるかの問題なんですよ?……ただ守りたい者を守る為だけの戦いではないと思うのですが……?!!」

蔵人の言いたい事……分かる気はするのだが……
ウルは頭をかきながら
「……お前さあ…嫌いな奴の為に戦える?」
「えっ?!嫌いな人の為にですか?それは……状況によるかと……」
「俺は…悪いけど戦えない。俺が今、戦っているのはお前やゼペットじいさんとかの仲間達の為、そして俺が今まで出会った来た人達の住む場所を守る為…それに……もし出来るなら…あいつも救ってやりたい…」
「……あいつ…って、まさかこの戦いの元凶でもある…あの方の事ですか?……」
「うん…助けたい。……でも俺にはきっと…心さえも救えない。…そう、あいつの心を救える奴はこの世界のどこにもいないんだ…。」
何かを知っているような感じているような…そう、まるで共感するような言い方
「……ウルさん…貴方も…ですか?」
「俺?俺はあいつみたいなバカな真似はしないぜ。それに………。いや……いいや、これは俺自身の問題だし……」
「ウルさん!!最後迄言って下さい!!」
「……んんっ……そうだな……うまく言えないけど……俺はアリスを愛している。俺にとってアリスだけが俺の生きる意味なんだよ……例えば……もし今、世界がすっごく不幸な世界になったとしてもアリスが…アリスだけが俺の側にいれば……それだけで俺はきっと幸せなんだと俺は思う……。だけど俺はあいつのように過去から始める事でアリスとの出会いや今迄あった人達の事を消したいとは思わない。だから俺はあいつの真似は出来ないって事……かな?。」
「ウルさんは……幸せでは…ないんですか?だって…アリスさんはこの世界のどこにもいない……いない…から……」

ウルさんに言ってはいけない人の名前だと分かっている…だけど……

「……幸せってさ……人それぞれ違うんだよ。誰のものさしでもはかれない…。だから俺の幸せは俺だけが分かっていればいいんだよ。」
「……ウルさん……」
「はははっっっ!!!……なんだか言ったこっちの方が恥ずかしくなるじゃんかよ!!」
「……僕にも…僕にもそんな人が現れるでしょうか?…」
「もう会っているかも知れないぜ?アナスタシア…性格はすごいけどいい子じゃんか」
「……その…僕には……まだ…良く…分からなくって…」
顔を真っ赤にしながらも戸惑う蔵人
「いいじゃんか、それで。俺も最初にアリスと会った時からアリスを愛してたわけじゃないし……まあ可愛い女の子って感じで…アリスからしたら俺はきっと身の危険を感じる男だったと思うし……」
「……それって……一体……」
蔵人の理解出来ない顔にウルも気づき
「あっ!!余計な事まで言っちまったな。まあ俺とアリスの事は気にするな。ともかく蔵人は蔵人の感じたようにやればいいんだよ」
「あっ……あの……今度…また…その…戦いが終わって落ち着いたら……アリスさんとウルさんの事……もっと聞かせてくれませんか?」
「……ダメ!これ以上は教えられない……」
「えっ!どうしてですか?」
「言ったらきっと……蔵人、アリスに惚れちゃうから…」
「ほっっ……惚れませんよ!!」
「惚れる!!惚れる!!ははははっ〜」
「もうっ!!僕には……」
蔵人は自分が思わずアナスタシアの名前を言いそうになった事に少し驚き戸惑う。
「今……アナスタシアの名前……言いそうになっただろ?」
「ちっっっ違います!!!さああっ!もう家に帰りますよ!!!」
早足で家に向かう蔵人の後ろを歩くウル…。そんな蔵人の後ろ姿を見ながら

……本当にさ……お前には幸せになってほしいんだ。…俺の幸せは……この世界にはないし呪いも解けない状態だけど……でも俺は今まで精一杯生きたし最後まで俺は俺として生きていく。そうこれが俺の決めた道だから-----。

END