『1のGOODからシャドウハーツ2へのプロローグ』

アリスと結婚してから半年が過ぎようとしていた。俺は畑仕事をしながら時々来る朱震のじっちゃんやマルガリータの化け物退治の依頼を受け、アリスは近所の子供(ガキ)共に勉強を教える毎日。
そんなある日、畑仕事から帰って来たら家に珍しい客がいた。四角い顔のガタイの良い少し大きめの体格をしている男。少し怖めの顔であるがやさしそうな雰囲気がそれを感じさせない。その男は座っていた椅子から立ち上がり
「お久しぶりです。ウルさん」
昔と同じで太い声、丁寧な言葉使い…。
「おう!久しぶりだな……えっと……その……」
……そう、顔は覚えているのだ顔は!!ただ名前が出て来ないだけなのだ……。
奥の台所からコーヒーを持って来たアリスが会話を聞いていたらしく
「ウル、加藤さんよ。」
「あっ!そうそう加藤だ!加藤!」
加藤はそんなウルをなつかしそうに見ながら
「……変わりませんね。ウルさん」
「……お前は……変わったな。」
昔とは違う軍服姿と黒いマントの服装だけで言っているのではない。昔は何と言うか頼り無く優しい男というイメージだったのだが目の前にいる男は……哀しみの眼…そして気迫があった……
「……どうぞ」
アリスが暖かいコーヒーをテーブルの上に置きウルと加藤に座ってお茶を飲むように勧める。
「ありがとうございます、アリスさん。」
加藤とウルは席についてコーヒーを飲む。
「ウルさん、これを……」
胸ポケットから白い封筒を出しそれをウルに渡す。ウルは差出人の名前もない白い封筒を見ながら
「……?これなに?」
加藤はその質問に答えず
「……ロジャー・ベーコン氏がドイツ軍に保護されています」
「えっ!ロジャーのじっちゃんが??………って保護って何?」
ウルはアリスに助けを求めアリスは考えながら
「何かの危険から…身を守ってあげる…と言うべきかしら……でも…」
加藤を冷静に見ながら
「…でも…保護という言葉は本当に正しいのかしら?」
軍に保護されたとは言っても軍が何の見返りもなく保護するわけがない事をアリスは知っている。ロジャーは権力もなければ金もない。しかし大魔術師と言われているその頭脳は軍にとって利用出来る価値があるのは確かだ。だが価値はあっても、そのロジャー本人が軍に協力するかどうかは又別問題になるのだが……。アリスの言葉に加藤は少し笑みをうかべ

「……私は日本軍帝国の特使として来ている人間ですのでドイツ軍の保護と言う言葉が正しいかどうかは分かりませんがロジャー氏が謎の組織に狙われている事は確かなようです。」
「そう…。……その封筒の中身…一体何なのか聞いても構いませんか?」
「ロジャー氏の居場所…とその謎の組織について私が調べた事が書いてあります。私には、これ以上の手助けは出来ませんが……。」
不安そうなアリスの顔を見てウルは加藤に
「ロジャーのじっちゃんは無事なんだろ?」
「はい……御無事と聞いています。」
「それだけ分かれば充分だ。ありがとな、加藤」
アリスはまだ不安そうではあったがウルは特に気にもしなかった。なぜならロジャーという人物を知っているからだ。ロジャー……年令は700歳以上だが元気で見た目は……怪しい老人…で殺しても死なないタイプと言うべきか。すごい言われようだが結構ぴったりと当てはまる所がなんとも言えない。
「では、私はこれで失礼します。」
加藤が席を立つ
「えっ!もう帰るのか?」
「はい、それだけを言いに来ただけですので……それに私も軍人としての仕事がありますので……」
「わかった!今度会う時はもっとゆっくり話をしようぜ!!」
そのウルの言葉に加藤は
「ウルさん……私は-----」
何か言いたげな表情をしながらも次の言葉をのみ込んでしまい黙ってしまう加藤
「……加藤?」
「いえ……何でもありません。また会いしましょう。」
言いながら扉を開けて外へ出る加藤。扉が閉まり部屋にはウルとアリス2人だけになった時ようやくアリスがウルに
「ウル…」

上に行く
「大丈夫、分かってるって。加藤が言った『無事』の言葉を信じようぜ。」
「……ウルは…加藤さんを……信じているの?」
「?信じるもなにも……今はこれだけしか情報はないんだし…アリスはなにがそんなに不安なんだ?」
そう言いながら白い封筒をアリスに渡す。アリスは何も言わず受け取った封筒に入っている文章の中身を確認する
……私が心配なのは……ウル、あなた…あなたなの。あなたは自分が信じているものを疑わない。……それが私を不安にさせるの……。



もうじき夜になる為か民家の明かりと家からの人の声はするだけで外に人の姿はなく町を出ると、ただ畑と道があるのみ。光りと言えばおぼろげに見える月の光だけ。加藤は雲に消えたり出たりする月の光りを頼りに1人歩きながらウルの言葉を思いだす
『……お前は……変わったな。』
……そう私は変わった。川島中佐という女性を失ったあの日から-----。何故変わったのか自分でも分からない。ただあの方の側にいたかった、守りたかった、ただそれだけが望みだったのに……それが一瞬で失われてしまった……。それからの私の心は意識も行動も何もかもが変わってしまった……。1人の女性の死が……私を変えたのか?それとも私が変わりたかったのか?今の私はそれさえも分からない……。
「ウル……」
思っていた言葉が口にでていた。ウル…という男性の名…川島中佐はいつも彼の自由な生き方に憧れていた。……だから…そう、だからこそ私はウルさんに封筒を渡しロジャーベーコンについても教えたのだ。だが今自分がしている行動も生き方も考えも全てが自分自身の行動であるはずなのに正しいのか間違っているのかも分からない。まるで見えない霧の中をさまよい歩いているような感覚……私は知りたいのだ今の自分の行動の結果を-----。そう今度ウルさんが私の目の前に現れた時に分かるはずだ。彼が私の敵となっているか、味方となっているか、その時にこそ自分の真意が分かるはずだと。なぜそう思うのかも分からないのだが今はそれを信じて進むしかない今はただ……。

「親方さま……」
加藤はその声に心臓がドキッとした。その声は川島中佐の声とそっくりで歩く道の先で待っている女性の声なのだが雲で月の光が隠れてしまった為ハッキリとした姿は見えない。加藤は一瞬、動揺をしたものの現在の自分の状況を思いだしその声の女性の名を言った
「桜花……」
それがその女性の名であり自分の手足となって働く部下の1人である事を認識する。桜花と呼ばれた女性は前に出て加藤の前でひざまずき
「御無事でなによりです。親方さま」
桜花を見てからその周りを見渡す加藤
「……後の2人は?」
桜花は顔をあげ少し首をかしげながらも
「?、“飛燕”と“雷電”でしたら親方さまの命で飛燕はニコルを雷電はラスプーチンを監視しております」
「……そう、そうだったな」
ウルさんの家に行く前に2人に命令していた事を思いだす。
「親方さま……」
立ち上がりながら心配そうな声で近付く桜花。しかし加藤は近付こうとする桜花を手を前にしてそれ以上近付く事を制した。
「大丈夫だ。行くぞ、桜花」
その時ようやく月の光が雲から出て来て桜花の姿を写し出す。……黒く短い髪、胸も背の高さも体格も川島中佐に似ている。戦闘員なのか黒い頑丈なコンバットスーツをボディにぴったりと着用し、その瞳は細長いゴーグルにおおわれて見えない。もし瞳が見えれば確実に川島中佐に似ているかどうか…いやそっくりなのかが分かる事だろう……。
「…ウルさんがお前を見たら何と言うだろうか……」
「……ウル??親方さまが会いに行った方の名前……ですね」
桜花の返事に加藤は自分が思っていた事が口から言葉として出ていた事に気づく
「……お前が知る必要はない。」
厳しい口調に変わった加藤の声に桜花はサッと後ろにさがり謝る
「すいません。差しでたことを言ってしまいました」
「………行くぞ」
そのまま桜花の横を過ぎて歩く加藤…桜花が悪くはないと分かっていてもどうする事も出来ない自分を責めながら……。


………それはこことは違う国のどこか……同じ月が見えていてもそれは全く遠い場所……木々に囲まれた森から聞こえるもの。…それは狼の遠ぼえ。何かを伝えるような狼の遠ぼえが森を包み込むように聞こえて来る……それは始まり…そう物語の始まりの予兆なのかもしれない……。


END