『プロぼうすの行方…(シャドウハーツ1のGOOD END編)』

朱震…老体ながら現役を主張してる元気な老人。右目は眼鏡をかけ、もう片方の細い眼はするどく彼が着ている中国風の拳法服と帽子からでも彼が何者であるかが一目で分かる。しかし同時にその落ち着いた雰囲気と暖かさに親しみを感じるのは彼という人柄のせいかもしれない。そんな朱震が用を済ませ泊まっているホテルに向かう途中だった。ふといつもにぎわいのある公園が静かだと気づく。公園の中に入り原因を探る為に周りを見る
「おっ!!あれは……」
ベンチに座っているガラの悪い男がこの公園が静かな原因だとすぐに分かった。あまり手入れがされていない少し長めの茶色の髪……赤いシャツの上から茶系の長いコートを着てはいるものの鍛えてあげている肉体とするどい瞳が彼を周りから遠ざけている。しかし普段なら遠ざけるだけの人々も彼のボコボコに殴られたような顔を見れば……この場から逃げ出すのも仕方のない事なのかもしれない……。朱震は知り合いでもあるそのガラの悪い男に近付き名前を呼ぶ
「ウル。何やってんだ?そんなボコボコな顔をしてベンチに座っていたら御近所迷惑になるだろうが!!」
朱震の言葉に少しムッとしたもののウルはプイッと顔をそむけ
「俺が悪いんじゃない……アリスが…アリスが悪いんだ…」
「えっ!!……まさか…アリスがお前のその顔をボコボコにしたのか??お前…アリスに何をしでかしたんだ?」
……アリスはむやみに人をこんな風にボコボコに叩く娘ではない事を朱震は知っていた。そう原因があるとすれば……この男…ウル!ウルなら…思い当たる所がたくさんあり過ぎるほどだ。

「……じっちゃん。俺の話聞いてた?アリスが悪いって言ったんだぞ?なんで俺のせいになるわけ?ねえ?」
「いや!!誰が聞いてもお前が悪いと分かるから!!で何したんだ?場合によっては俺もお前を叩くぞ!!」
「……もう叩く気満々の体制だし……。」
「早く言わんか!」
「……ぷ……プロぼうずを……言っただけだ」
「はっ?プロ??ボウズ??なんじゃそりゃ??」
「あっ!じっちゃんも知らないんだ。夫婦になるには結婚をしないといけないだろ?でその前に結婚したい女性に男が言う儀式なんだぜ。……ってマルガリータが言ってたんだけど……でこんな目に……もう訳わかんねえって感じでさ……」
ボコッ……持っていた杖でウルの頭を叩く朱震
「そりゃ!お前「プロポーズ」だろうが!!ボウズじゃねええ!!!」
「痛てえな!!ちょっと間違えただけだろ??」
そんなウルに少し呆れつつも
「……でお前アリスに何て言ってプロポーズをしたんだ?」
「あっ…うん。俺さ何て言っていいか分からなくって……そしたらさマルガリータが日本風のプロポーズの言葉を教えてくれて…しかもほら!紙にも書いてくれてさ……」
その紙を朱震に渡してその紙に書いてある言葉を読み上げる…
「……「俺の為にスープを作ってくれ」???って書いてあるが……??」
「そう日本では「スープ」の所が「みそ汁??」って言うらしいんだけど…」
「…で、これをお前がアリスに言った後……アリスはお前に何て言ったんだ?」
「……それがさ……「わかったわウル。今夜は何のスープが飲みたいの?」だってさ。それって何か違うだろ?」
「……ある意味アリスの言っている事の方が正しいが……まあそれ置いといてだ。俺にはまだお前がアリスにそんなボコボコにされる訳が分からんのだが……」
ウルは少し照れくさそうに頭をかきながら
「実はさ……もう正直に言ったんだよ」
「はあ…正直に…なにを?」
朱震はその言葉に嫌な予感を感じるが当の本人はちょっと恥ずかし気に
「……「俺と一緒に子供をつくろう」って……言ったんだよ」
そのウルの言葉に朱震はウルを叩く気力もなく代わりに涙が流れ…
「あれっ?じっちゃん泣いてんの?そんなに感動した?」
「違うわっ!!あまりの情けなさに涙が出たんだよ!!……と言うか何でそんな大事な事をマルガリータじゃなく俺に相談しないんだ?このバカ野郎がっ!!!」
「いや……だって、そう思った時にいたのがマルガリータだけで他に誰もいなかったし………その時じっちゃん出かけてたじゃん……」

……待つと言う言葉を知らんのか!とウルに言いそうになった朱震だったが全ては終わった事だと自分に言い聞かせ

「……分かった。もう過ぎた事だ。……まあ確かにアリスがお前をボコボコに叩きたくもなる訳だ。いいかウル!!まずアリスに謝れ!!それでアリスにこう言うんだ」
朱震は紙にその言葉を書いてウルに渡す
「?なんだ?これって……そのまんまじゃん」
「いいから!!覚えろ!!アリスに会いにいくぞ!!」
「えええっ?今から?」
「当たり前だ!!」



上に行く

その頃アリスは……1人部屋で落ち込んでいた。
……確かに…いつかは…って思っていたけど…あんな風にあからさまに言われるなんて……でもウルなら仕方…ないのかしら……?

コンコン…ドアをノックした後に落ち込みの原因である張本人がドア越しから
「……あっ…アリス…さっきは……その…ゴメン…。あれは…俺の本音と言うか……痛っ!!何すんだよ!!」
ボコボコとウルを叩く音が聞こえる。だがアリスはその扉を開ける勇気がなく扉に近付き
「ウル……私こそ…さっきは叩いてごめんなさい……。今はまだ…その…心の整理がつかなくって……もう少し1人にしてほしいの…」
今会えばきっと……私はウルから逃げてしまう
「……アリス…その…聞いてくれ!!俺が言いたかったのは………本当に言いたかったのは………結婚…そう!結婚してほしいんだ!……俺と…」
「えっ!……」
その言葉に驚くアリス
「だから…その…そのまんま何だけど……結婚を…ね俺と………」
「………」
アリスからの返事はなく、そのままの状態で長い沈黙が続き……扉の向こうではウル達の争う声が聞こえる…
「くそ!!じっちゃん責任とれよ!!アリス黙ちゃったじゃないか!!」
「何を!!お前の誠意が足りんのじゃ!!」
ガチャと音がしてアリスが扉を開けた時、ウルはアリスの顔を見て驚く
「ご……ごめん!!泣かせるつもりじゃなかったんだ…俺……」
アリスに近付き焦るウル…朱震は後は2人の問題だと気づき、その場から静かに立ち去っていく。ウルはそんな朱震の行動にも気づかず、ただアリスが目の前で泣いている事だけで頭がいっぱいだった…
「…アリス……」
「………私………でいいの?ウル…」
「えっ?」
「結婚……本当に私でいいの?」
ウルがアリスに言った言葉にアリスは逆にウルに訪ねて来る
「なっ!!何言ってんだよ!当たり前じゃないか!!アリス以外に……」
泣いているアリスを包み込むように抱き締め
「アリス以外に誰がいるんだよっ??!!」
アリスとの出会いの事…アリスがグレイブヤードという自分の精神世界に来てくれた事……。そして俺も俺の為にアリスが受けた呪いを力づくで助けた事……いろんな想いが巡ってくる。俺達は出会いお互いを想い行動し……ここまできた。だからこそお互いに「愛しい」と思え一緒にいたいと願う……。
「アリス……俺とずっと一緒にいてくれ………」
「……ずっと…?」
「そう……ずっとだ」



朱震はウルとアリスを2人きりにしてから、ずっとホテルのロビーで心配していた。

……大丈夫…大丈夫だとは思うんだが……。はあ、何だかまるで自分の息子を心配しているかのようだ。んっ!………息子………息子か……。

息子と言う言葉に少し照れてしまう朱震。
「朱震のじっちゃん」
「えっ!!!」
あまりのタイミングが良いウルの声に驚く
「な……なんじゃ急に声をかけるな!!びっくりするだろうが!!」
「なんだよ!!俺は普通に声をかけただけだろ?そんなんでびっくりする方がおかしいんだよ!!」
「ごめんなさい。朱震のおじさま」
ウルの横でウルの代わりに謝るアリス。朱震はアリスの幸せそうな顔で2人がうまくいったと確信する。
「……良かったなアリス。こんなバカな奴だが見捨てないでやってくれ」
「はい、朱震のおじさま」
「大丈夫だよ!アリスはずっと俺と一緒にいるって約束したんだから……」
言いながら横にいるアリスに抱きつくウル
「うっ……ウル!!」
人前でウルに抱きつかれ恥ずかしくなるアリス。それを見た朱震は持っていた杖でウルを叩く
「儂が帰る前にお前には常識というものを教えなきゃならんようだな!!」
「いてえな~!!……って帰る?ってそれって……マジ??」
「んっ!!お前のバカな頭にいろいろと教え込んでからなっ!!」
「おじさま……」
悲しそうな眼で朱震を見るアリス。そんなアリスをさとすように
「アリス……旅は終わったんだ。後はそれぞれが帰るべき場所へと帰る…それだけじゃよ。悲しむ事はない。またいつか会える。それが人との巡りあわせと言うもんじゃよ」
そう…巡り会い…そして別れる……。だけど心には何かが残る…人生とは……そう言うものなのかもしれない…。
「それに…次に会う時は儂にも若い奥さんが出来ているかもしれんぞっ!はっはっはっ」
笑って冗談を言ってみるがウルは真顔で
「それ……本当に冗談にしか聞こえねえし……」
「………!!!」
朱震が杖でウルをボコボコ叩く音がしばらく続いたのは言うまでもない……。

END