『俺の精神(こころ)が望むもの(シャドウハーツ1のGOOD END編)』


俺はあいつの分身……あいつは俺であり俺はあいつなのだから……。
あいつはいつもおびえていた。
いつか化け物に取り込まれる自分を……
弱さを認めたくない自分を……
悲しみを感じたくない自分を……
すべてを俺に押し付けて……その度に俺の負の部分が増えていくのが分かる。だがこの負の部分さえもあいつ自身のものである事をあいつは分かっているだろうか?
………そう、あれはそう思った時だったかもしれない。あいつが化け物を倒す度にマリスが負の力を満たし、その度に俺に力が宿り-----俺がキツネ面としてあいつを倒す事になったのは-----きっとそんな時だった……。

あいつは俺が現れる度に逃げ…マリスが溜まる前にグレイブヤードという自分の精神世界に負を浄化をしに来るようになった。だが俺からいくら逃げようとしても俺からは逃げられない…なぜなら俺はあいつ自身が無意識に求めている「死」なのだから……。

あの日、そうあいつが天凱凰との無理な融合をしようとした時、あいつは天凱凰に魂を取り込まれる恐怖から逃げる為にグレイブヤードという自分の精神世界で自分の墓穴(はかあな)を掘り続ける……いつか自分の意識さえもなくなるその日まであいつは自分の墓穴を掘り続け俺はそれを見届けて……あの女がグレイブヤードに…そう…あの女が俺やあいつの目の前に現れるまでは-----確かにそうなるはずだったのだ。

なぜ生から逃げる事がいけないのだろうか?怒りや憎しみや恐怖、悲しみから全てから逃れられるというのに-----。女はあいつに「生きる」という道を導いたせいで、あいつは現世で生きる決意をする。俺とあいつの最後の戦い……俺は負けた……なぜ負けたのか?「何が」あいつを強くしているのか?あいつが俺を受け入れ一緒になった時それが分かるのだろうか?……あいつの中に入ったその時、俺は「愛しさ」「やさしさ」「思いやり」……初めて知る感情が俺を包みこむ。そして俺は俺にこの感情を与えてくれた女の名をつぶやく「アリス」……その名をつぶやいた瞬間あいつを受け入れる事が出来ない俺のごくわずかな部分がはじき出された。アリス…アリス…愛しい名……俺が俺だからこそ愛しいと想う名前……だからこそ、あいつとは一緒にはなれない部分。たとえグレイブヤードの中をさまよう精神(こころ)となったとしても-----。

俺はさまよう……アリス…それだけが俺の中の大切なもの。そんな俺を四仮面達はあざ笑う
「ふふふっっ見ろよ。取り残された哀れな精神(こころ)の部分だ。力もなくたださまようだけ……我らの力さえにもならぬ……」
「ははははっ…そんなモノは、ほっておけ。ほら来るぞ!!あの娘が!!アートマンに自分の魂を捧げに来るぞ」
「くくくくっっ……あの小僧を助ける為に業という呪いを全てを我が身に受け自分の魂を捧げた女……」
「けけけけっ……現世では小僧に邪魔をされたがここでは邪魔は出来まいよ」
-----アリス!!!-----
俺は叫び彼女を助けようともがく。しかし力もなく、さまようだけの精神(こころ)である俺には何も出来ない。
「……大丈夫だ……」
力強い懐かしい声が俺を包み込んだ。
「……お……お前…なぜ…」
「へへっ、声が聞こえたんでね。なんせ俺はお前でありお前は俺だから…」
「…お…俺はお前と一緒にはならないぞ…」
「分かってるって!さあ早く俺の中に入って俺を使えよ。早くしないとアリスがやばくなるぞ」
あいつの申し出に驚き戸惑う。……しかし今の俺ではアリスを助ける事が出来ない…俺の望みは…彼女を助けたい!それだけだ…もしそれが叶うなら……それだけで俺は……
「……分かった。」
四仮面達を倒しアートマンを倒す。アリス…君を守った。それだけで俺は……借りたウルの意識から離れる
「?……おいっ…?」
あいつは俺が離れた事で少し動揺しアリスは不思議そうにあいつを見る
「ウル…?」
あいつは平静を装いながら
「あっ、いや迎えに来るのが遅くなってすまなかったな」
さすが俺の分身と言うべきか……そしてアリスの魂が現世に帰ってゆく……これが俺の望んだ事……だから俺は満足している……愛しい人を守れたのだから…もう何も望まない……俺はこの愛しさと共に………無となり消えていこう……
「…一緒にいこうぜ」
あいつが俺に語りかけて来る。そう俺の分身が……
「……俺には力も何もない。このまま消えて行く精神(こころ)……俺にかまうな」
「消えていく精神(こころ)なら俺の中で消えてもいいだろ?なっ!」
なぜ俺にかまうのかは分からない…だがそれさえも今の俺にはどうでも良かった。
「……好きにしろ」
「うん、じゃあ好きにさせてもらう」
あいつが俺を包み込む。あいつの中に入り溶け込んで行くのが分かる。あれだけ嫌だったあいつの中なのに……ああそうか……これが俺という自身であり、あいつという自身……そう俺達は全てが「ウル」という人格の魂なのだ……。
「帰るとするか……アリスも待っているしな……」
現世に帰る……そこにあるのは良い事ばかりではない…だが…アリス……彼女がいる世界が今の俺のすべて……そう俺という精神(こころ)が望むものの一つの願い……。

END
上に行
『いつか……きっと…(シャドウハーツ1編)』

夕日が染まる丘で私は1人彼を待つ……。
「おいっ!アリス…あ…」
彼女に向かう彼の足が途中で止まった。彼女が待つその場所は夕日の色でおおわれて、その場所にいるアリスも例外ではなくアリスの銀色の髪も青色のリボンも緑色の服も全てを淡く紅く夕日の色に染めて……そこで待っているアリスがまるでそう…まるでいつものアリスとは違って見えて……。
「ウル?」
アリスの声でハッと気づき急いで彼女の元へと急ぐ
「ごめん、ごめん」
「?どうしたの?何かあったの?」
途中、自分の足が止まっていた事について聞いているのだと分かってはいるのだが
「あっ…いや…何でもないんだ。何でも……はははっっ……」
夕日に染まったアリスの姿に見愡れていたなんて言えるわけもなく笑ってごまかしてしまう
「ウル……」
彼の茶色の髪がコートが夕日の色に紅く染まっていく……ただ1つ彼の赤い瞳の色だけは変わらない。
「……貴方に会えて良かった…」
「えっ!……あ…アリス??」
急な彼女の言葉に戸惑うウル…だがアリスは気にもとめず
「……私の人生の中で奇跡とも言える出会い……」
「あっっっあああ……アリスっっっっ???」
どうして良いか分からず焦ってしまうウル。そんな焦るウルに近付いて
「びっくりした?」
「えっ!!?」
もう一度アリスは微笑みながら
「びっくりした見たいね」
「うっ…うん、びっくりした…」

……と言うか男の俺の立場が……ないって言うか……。

「……でも忘れないでね。」
「えっ!!?」
「………忘れないでね」
次のアリスの言葉がとても決意のある言葉に聞こえ
「……忘れない…と言うか忘れられない…」
ウルのその言葉にアリスは微笑む。
……アリス?
いつもと違うアリスの様子に不安がよぎる。
「アリス…何かあったのか?」
心配そうに自分を見るウルの瞳に思わず声にならない声が出そうになった。

……ウル!貴方を愛している……でも四仮面の呪いが私を……!!

声にならない声が胸を貫く…言ってしまえばきっと楽になる。でもきっと言うだけでは終わらない。泣き叫んで貴方にしがみついて……きっと貴方を困らせてしまう。
「……明日…ネアメートに…行くから……かな」
声が震えているのが自分でも分かる
「大丈夫だ。アルバートの奴なんかささっとやっつけてゴミ箱にぽいっだ」
アリスを元気づけようとするウルの態度にアリスは微笑み
「…うん。ウル…約束してもいい?」
「俺に出来る事ならいいけど…なんだ?」
「戦いが終わったら……もう一度この場所に…2人で……来ようね?」
「なんだそんな事か!!お安いご用だ」
「うん、ありがとう…ウル」
アリスがあまりにも嬉しそうに言うのでウルも照れてしまう。

……良く分からないけどアリスがそれで喜んでくれるなら……それだけで俺は……。

そしてアリスと一緒にが沈みかけていく夕日を見ながらウルがぽつりとつぶやく
「……ここさ……。昔、親父と見た夕日と似ているんだよな……」
「うん……前に来た時も同じ事を言っていたから……だから来たの…」
「……そっか……」

夕日を見つめるアリスの横顔をウルはアリスに気づかれないように見つめる

俺はアリスに会って初めて心が満たされる気持ちを感じ生きる意味を知った。今は恥ずかしくて言えないけど今度ここに来た時に言うから聞いてほしいんだ……アリス……君を愛している……と。

夕日を見ながらアリスは自分自身に誓う……今度ここに来た時……自分がどのような状況にあったとしても…その時は言わせてねウル。……貴方を愛しているって……


いつか…きっと………そう遠くない未来で。


END