『-----願い---アリス編』

不安じゃないと言えば嘘になる。でも後悔はしていない。
だって彼は生きて私の目の前にいる。私の名を呼び話す声がすぐそこにある。ただこの時がいつまでも続かないという事だけ……。そう私には分かる。しのび寄る死の影が迫って来ている事を。彼にもう会えない時が来ると言う事を。
私がいなくなった時きっと彼は私を想って泣いてくれるだろう。でも……そう…きっといつの日か私が彼の中で思い出の過去となっていき彼が他の女性を見つける時……嫌、そんな事は考えたくもない!。

「ウル……」

思わず声が出てしまい手で口を押さえ彼を見る。彼は特に気にした様子もなくいつもと変わらない態度に私は安心はしたものの気づいてほしいという気持ちがある自分に少し驚く。

-----忘れないで。私を忘れないでウル。何度心の中で叫べば貴方は気づいてくれるのだろう。何度願えば死の影を打ち払う事が出来るのだろう。

…この想いも願いも最後まで叶わないかもしれない……でもそれでもいい。私は今生きている、生きている…だから諦めない。最後の息がとぎれるまで私は私のまま生きて彼と共に歩いていく
そう……ウル……私の愛しい人と共に……

  『-----信念---ロジャー・ベーコン(アルバート・サイモン)編』

……ロジャー・ベーコン……

その名が今の私の名……。自分の本当の名を捨てた時からこの名前にする事を決めていた。この名前こそが私のかつての師であり復讐する者であり私がこれから行う偉業を邪魔する男の名前だと思っていた
そう……ウルムナフ・ボルテ・ヒューガ…と言う若者に会うまでは-----。

揺るぎない信念で私に立ち向かってくる男…ウル。お前がそうであるように私もまた誰にも揺るがされる事のない信念で突き進む。私の行いを復讐だと言う者もいるが正しい者が罰せられて人が平等でないこの世に何の未練があると言うのだろうか?。そんな世界などあってはならない世界にほかならない。だからこそ私は正しい世界に導く者となる。それは誰もが平等である神が支配する世界。

ウルそしてアリス……君達には私の考えなど理解できない事も分かりあえない事も分かっている。だが……なぜだろう君達が私を追い掛けて来る事に恐怖も恐れもない。いや、それどころか君達がここまで私を追って来るだろうという確信さえあるのだよ。

さあ、来るがいいウル達よ。私は私の今迄の道のりに後悔などしていないように君達もまた後悔などしないだろう。
そう、それが私達のたがいに交わる事のない信念の戦いなのだから……。

  『-----慕情---朱震編』

「へへっ、こんなにうまい酒を飲むのは久しぶりだな」

夜の美しい満月が朱震が持っている盃の酒に写っていてそれを見ながら飲む酒。何年生きても酒の味だけは変わらない。そう酒の味だけは-----。
ウルの父である日向が死んだ時、なんで俺が生きて奴が死ななきゃなんねえのかと何度思った事だろう。だがそう思っていても時は帰らないし自分は生きている。そして何の因果かウルという坊主に出会ちまった。最初は小生意気なガキだと思っていたし坊主がヒュージョンした時は内心、心臓が飛び出るほどびっくりしちまった。だってそうだろう?日向あんたのせがれに会う事になるなんて誰が思う?
しかも運命のいたずらなのか坊主はあんたと同じ道を行こうとしている。口は悪いが本当にあんたにそっくりだよ。

……日向よ、俺はこれからの戦いでお前のせがれを守ってやれる自信はねえが一つだけお前に約束するぜ。それはあの坊主と一緒に死んでやれるって事だ。まあ、殺しても死ぬような奴じゃないがこれだけは約束するぜ。

「けっ、こんなにうまい酒なのになんで酔えねんだよ」

そう言いながら涙をぬぐい酒を飲む。だが酔ったとしても、この約束だけは忘れない。そう俺がお前に誓った約束だから-----。

 『-----願い---ウル編』

周りに誰もいない静かな夜はそっと彼女の名をつぶやく……

「…アリス…」

守れなかった人…今はもういない人…愛しい人…。
愛しい名を何度呼べば君の声が聞こえるのだろう?君の面影を何度追えば君に会えるのだろう?

涙が頬を何度流れても、今この涙を止める術を俺は知らない。ただ分かっているのは朝になれば涙が頬を流れる事はないという事だけだ。だがそれでいい。人前で泣くのも同情されるのもまっぴらご免だ。
俺は今迄のように腹が減れば食うし眠たけりゃ眠る。俺は俺である事をやめない。なぜなら俺は生きているからだ。アリスがくれた命を糧に俺は今を生きている。生きて生きて生き抜いて……そしていつか……そう…俺はいつか死ぬだろう……。
死ぬ時は平穏な生活の中で死ぬのではなく戦って死にたい。戦って戦って自分の血がどれほど流れようとも心臓の鼓動が止まる瞬間まで拳をあげ続け……そして最後のその死ぬ瞬間、俺は愛しい君の名前を叫び、その名を自分の魂に刻み込んで逝きたい。君の側にいけるように。君を忘れないように。
そう……アリス……君の名を----------!!

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